ヨーロッパ紀行 第17夜 ヒルデスハイム ハノーファー

「Exucuse me? I`d like to stay here one more night, ok?」

『Oh, ok, sure』

やっちまった…。連泊しちゃった…。

何度でもいうが、この旅はパリでのんびりするために計画したのである。

今日で旅は3日目。それにもかかわらず、僕はパリからはるか遠く、北ドイツのハノーファーにいる。パリへ行くより北欧のデンマークのほうがよっぽど近い。明々後日の早朝にパリから帰国便が飛び立つため、今日を含めて実質あと3日しかない。にもかかわらず、パリまで2日はかかる北ドイツに連泊しようとしている…。

もういいんじゃないか、パリなんて。だってパリに向かうよりヘルシンキ向かったほうが早いもの。(帰国便はパリからヘルシンキ経由)

まさに危機的状況にいるにも関わらず、すんなり連泊できたことに安堵した僕は、部屋で2度寝を楽しみ、10時ごろようやく重たい腰を上げてホテルから出かけた。

昨日もいったが、ここハノーファーは観光の街ではないため、見るべきところも全くないのだが、どういうわけか街の周辺にはなかなか見どころが多い。メルヘン街道はもちろんだが、世界遺産を有する街がハノーファーから電車で1時間圏内に複数点在しているのだ。

その中で僕がチョイスしたのはヒルデスハイムという街。日本での知名度は抜群に低いが、世界遺産に登録された教会を2つも有している。そして何といってもとても近い。ハノーファーからわずか20分足らずで行ける。面倒くさがりの僕にもうってつけの街なのである。

ちなみにその他の候補地としては、メルヘン街道の終点で、音楽隊で有名なブレーメン、レンガ造りの美しい街並みが広がるゴスラー、など大変魅力的な街だらけなのだが、いずれもハノーファーから1時間かかるため却下。僕はどこまでもめんうどくさがり屋である。

さて、電車に乗ってあっという間に到着するヒルデスハイムは、「地球の歩き方」にも掲載されていない渋い街だけに、地図もなしに教会を探さなくてはならない。

しかし、今回の旅で僕は最終兵器を持っている。スマホである。今までの旅では、わざわざ空港で海外利用可能な携帯電話(ガラケー)をレンタルしていたのだが、前回の旅から3年、僕もついに文明の利器を手に入れたのである。

さっそくGoogleマップを起動だ。

…。

おかしい…。ヒルデスハイムと入れても検索されない…。

…。

地味すぎる街ヒルデスハイムの前には文明の利器も完全に敗北だ。

結局、インターネット専用機と化した文明の利器をすて、仕方なく自力で世界遺産の教会を捜し歩く。

駅前の道をしばらく歩いていくと、昨日のハーメルンと同じく、地方の小都市らしい街並みが広がっていた。いわゆる商店街である。ショーウインドーをしばし眺めていると、海外にありがちなおかしな日本語商品を発見。

「Super dry (極度乾燥しなさい)」と大きく書かれたショルダーバック。直訳しすぎだろ。そしてなぜ命令口調なのか。

こんな最高にダサいカバン買うやつがいるのかしら、などとこの時は考えていたが、この旅から2年後、台湾は花蓮の駅で、「Super dry (極度乾燥しなさい)」カバンを愛用している男性を発見することとなる。9,000㎞離れた台湾の地で奇跡の再会を果たすことになろうとは、この時点ではまだ知る由もなかった。

さて、ヒルデスハイムである。

ヨーロッパのほかの街と同様、街の中心には広場があり、広場のそばには大きな教会が立っていた。これが世界遺産の教会かあ、すごいなあ、さすが世界遺産だけあって立派だなあ、とひとしきり感想を述べたあと、よくよく案内板をみてみると、僕が事前に調べていた教会とは名前がまるで異なっていた。どうもこの教会はただの「街の中心にたっている教会」であり、世界遺産のそれとは別物のようだ。西洋史に疎いと教会をみてもさっぱりわからない。なんだよ、神聖ローマ帝国って?

結局、街の中心からしばらく歩いた小川沿いに目的の教会は建っていた。ヨーロッパにおける教会は、日本における寺院や神社のようなものであり、そこら中にあるから困る。しかもそのどれもが立派で美しいため、どこからが世界遺産なのかその境界がわからない。

お目当ての教会は、世界遺産にも関わらず観光客はほとんどおらず、中庭でぼけーとしたり、僕以外のほぼ唯一の観光客である外国人のおばあちゃん二人組に写真をせがまれたりしながら過ごし、なんとなーくその場を後にした。

世界遺産を見学した感想が、わずか3行に収まるあたり、この旅行記がいかに内容の薄っぺらいものかがうかがい知れる。「Super dry (極度乾燥しなさい)」のくだりのほうがよっぽど充実している。

 

再びハノーファーに戻り、お昼ご飯をドイツおなじみの魚屋さんのフィッシュサンドですまし、ちょっとホテルでお昼寝。目を覚ますとすでに夕刻だった。いったいヨーロッパまできて何をしていたのだろう…。

明日は何が何でも早い時間帯の電車でパリを目指さなくてはいけないため、最後の思い出にハノーファーの街を散歩した。

ハノーファー中央駅の外観は大変歴史のありそうな重厚な建物。ここ2日利用していたのはどうやら裏口だったらしく、初めて見学した表口は大変美しかった。

からしばらく歩くと、大きな公園があり、その奥にはこれまた重厚なつくりの市庁舎が見えた。

あらためてハノーファーの街を歩いてみると、決して古い街並みなどはないが、自然が多く住みやすそうな印象を受けた。人口は50万人ほどとそこそこ大きな町だが、それほどごちゃごちゃしてもいない。

ハノーファー最後の夕食に、駅ナカの中華料理店へ入った。ドイツといえばパンかソーセージくらいしか食べるものがないため、毎度のことだがやはり米に飢えていたのだ。早速チャーハンを注文。美味しそうなチャーハンの上にはまたしてもピーナッツバター。チェコに引き続いて、3年ぶり2度目の悲劇である。

なぜ彼らはチャーハンに余計なことをするのか。僕にとっては永遠の謎である。