台湾リベンジ 第5夜 台南

2008年1月19日

ZZZ …  

ZZZ…

ジリリリン! ジリリリリン! ジリリリリン!

ZZZ…

ZZZ…

ジリリリリン! ジリリリリン! ジリリリリン!

…。

ジリリリリン! ジリリリリン! ジリリリリン!

…。

うぅぅ…。うるさい…。

まだ4時だぞ…。

あとで知ったことだが、阿里山の宿では事前にお願いすると日の出見物のためのモーニングコールをしてくれるそうだ。

確かに日の出見物は阿里山観光のハイライトだし、ここに宿泊する人の大半が日の出目当てなんだろうけど、僕は事前に起こしてくれるよう頼んだ覚えはない。寝たの午前2時だぞ。いつまで観月ありさひっぱるんだよ…。

 

ジリリリリン! ジリリリリン! ジリリリリン!

 

わかった、見に行きます!

すっかり目がさえてしまった僕は、暗闇の中を阿里山駅へと歩いて行った。なんでも日の出観賞スポットは阿里山駅から列車で20分ほど行った祝山という

ところにあるらしい。

 

 ホームには霊験あらたか(かどうかはしらないけれど)な祝山からの日の出を拝もうという人立ちであふれかえっていた。みんな楽しみで仕方がないんだろうなあ、テンション高いもの。この寒さのなか(台湾なのに気温2℃!)なんで日の出なんか行かなきゃいけないんだろう…。

 一人テンションの低い場違いな僕は、日の出が待ちきれないみなさんの邪魔にならないよう、車両の隅っこのほうで小さくなって過ごすことにした。

痴漢の恐怖に怯え両手で吊皮を握り必死で寝ているふりをしながら30分、列車は何度も行ったり来たりを繰り返しながら徐々に高度を上げ(スイッチバックというらしい)ようやく祝山の駅に着いた。

 うぅ…、やっぱり寒いって…。『地球の~』によると、ここ祝山はホテルのあった阿里山駅周辺よりさらに標高が高いらしい。

ちなみに、これだけ寒いもんだから、周りの台湾人たちは物凄く厚着をしている。さすがは冬とはいえ最低気温18度くらいの平地でダウンジャケットを着込む連中である。めちゃくちゃ分厚いダウンジャケットを着込み(中にはセーターやらいろいろ着込んでいる模様)、マフラーを口の部分までぐるぐる巻きにし、ニット帽を深くかぶり手袋をし、おまけに連れと腕を組んでいる。万全の体制である。

僕はといえば、ユニ○ロのジーンズにTシャツ、それから『ファッショ○センター しまむら』のパーカーを羽織って、なぜか偶然バックパックのなかに入っていたマフラーだ。

寒い…。寒いに決まっている。気温2℃って…。どこの国だよここは…。

ハァ…、寒いなあ阿里山は…。せめて腕を組んでくれる人がいれば少しはあったかくなると思うんだけどなあ…。

『すみませ~ん!写真撮ってもらっていいですかぁ~?』

 クッソ、そんなあったかそうな格好しておまけに腕まで組んで身も心もあったかくなりやがって。

 もこもこのついたダウンジャケットを着込み腕を組んで身も心も温かなカップルに(心の中で悪態をつきながら)写真を撮ってやり、反対に身も心も寒い僕の写真も撮ってもらい(そういうところはぬかりない)展望台へと向かった。

 

 展望台にはすでに人だかりができており、その中心には学校の防災訓練で教頭先生とかが持っていたようなハンドマイク?(設定を違えるとキ~ン!とうるさいアレ)を持ったおっさんが漫談を披露していた。

『○×◎●★!』 ← 言葉分からんから記号で

『アハハハハ!』

『○★◎●×!』

『アハハハハ!』

おやじやるなあ…。少し離れた場所から一人その様子を窺っていたのだが。彼がなにか発するごとに周りの観衆からはドカンドカンと笑いの渦が巻き起こる。何言ってんだろうなあ。朝の5時から下ネタってわけじゃないだろうし。あやしい。

 しかし、台湾の人ってのはもうちょっと静かにできないのだろうか。やっぱり日本では初日の出とか富士山のご来光とかを拝む時ってちょっと神妙な気持ちになってワイワイ騒いだりはしないんじゃないかしら。いや、別に身も心も寒い僕が彼らを妬んで文句言っているわけではないけど。

僕は今までの人生で初日の出も富士山のご来光も拝んだことがないから本当に日本人が騒がないかは分からないけれど、やっぱりイメージとして神妙な感じがする。そんな状況で漫談をやるおやじは日本にはいないと思う。確かに台湾らしくていいのかもしれないけど。

そうこうしているうちにあたりは徐々に明るくなってきた。

『○★◎●×!』

例の朝から下ネタ連発で観衆を笑いの渦に巻き込んでいるおやじが何事か叫ぶと、みんなはおやじの後方に見える一際高い山のほうへ一斉に振り返った。お、なんだなんだ、いよいよか。

 

『○★◎●×!』

『オオォ~!!』 

再びおやじがなにやら叫ぶと、ついに後方の山の頂上から太陽が顔を出した。

『パチパチパチパチ!!』  ← われんばかりの拍手

お~こりゃきれいだわ。

普段は感動が薄いといわれる僕もこれにはちょっと感動。なんという神々しさ。そして下ネタおやじがなにか叫んだ瞬間に姿を現す太陽のあまりのタイミングの良さ。

きっと彼らは数え切れないほどの打ち合わせをひそかに行っていたんだろうなあ。

 

でも寒いからさっさとホテルへ帰ることにした。寒いんだよ、マジで…。

『○★◎●×!』

『アハハハハ!』

展望台ではなおもおやじの漫談が続いており、少し離れた祝山の駅にもお客さんの笑い声が届いていた。あのおやじはプロの漫談師か?

 

 祝山からホテルのある集落へと戻る列車は行きにもまして込み合っていたが、身も心も寒く例のおやじの漫談にクスリとも笑わず(言葉わからない)さっさと切り上げてきた僕は、車両連結部のロングシートの一か所を確保することに成功し、悠々と『地球の~』を開いて今日の予定をたてていた。

その時である。

『あっ、もしかして日本の方ですか?』

「ん!」

『日本人、ですか?』

「あっ、は、はい、日本人ですよ…」

『わあ~、わたし日本大好きです!去年まで日本に留学していたんです^^』

「へ、へぇ、そうなんだ」

『はい^^大阪の大学へ行っていて、阪急百貨店でバイトしてたんです!』

「へ、へぇ、そうなんだ。実は僕も大阪に住んでるんだ」

『ホントですか!いいところですね大阪^^』

 

断っておくが、これは脳内で繰り広げられた妄想上の会話ではない。一昨日の集集線の件と会話の内容が物凄く似ているからどうも胡散臭く見えてしまうが、妄想ではないのだ。

 なんと、隣に座っていた女の子が日本語で話しかけてきたのだ。本当に妄想じゃないんだから。

 彼女は陳さんといい、台湾ではなく大陸のほうの中国の浙江省出身で、友達2人と一緒に台湾旅行をしているらしい。

『どこのホテルに泊まってるいのですか?』

「街のほうにある櫻山大飯店ってところ」

『へえ~、私たちは阿里山賓館ですよ^^』

「えっマジで?」

阿里山賓館と言えば阿里山一の高級ホテルで、一泊一部屋6,000元(25,000円くらい)もする、と『地球の~』には書いてあった。ちなみに我が櫻山大飯店は800元(3,200円!)だ。

やるな中国。経済発展具合が伊達じゃないぜ…。

留学もしていたらしいし、この子相当金持ちとみた。

くっそ~、かわいいな…。中国人の話す日本語ってなんかかわいいよね。ちょっとなまっていてさ。

『友達が聞きたいことがあるそうです^^』

「どうぞどうぞなんなりと申してくださいませ」

浙江省へは行ったことありますか?』

「う~ん残念。数か月前に上海まではいったんだけど、万里の長城でとりつかれた幽霊に苦しんでそこまでいけなかったんです」

『ホント?いいところなので今度はぜひ来てくださいね^^』

 

やっぱり早起きするといいことってあるんだなあ。

『ぜひ来てくださいね^^』だって。こりゃあ連絡先聞いて行くしかないよね、浙江省へと!

「じゃあアドレスとかおしえt

『 Hey ! Are you Japanese guy ? 』

「…!?」

なんかよくわからないけど、逆隣りに座っているおやじが中国人美少女と楽しくトークをしている僕に対し話しかけてきた。

『 Hey ! Are you Japanese guy ? 』

「いや、まあそうだけど、いま中国人美女と話しててメールアドレス聞こうとしてるところだし、ちょっと静かにしt

『Wow ! My name is David !  How are you ?』

「I'm  fine thank you ! 」

『How are you ?』って聞かれると条件反射的に『I'm  fine thank you !』って言ってしまう日本の英語教育の申し子のような僕はあからさまにうんざりとした顔をしているのだが、彼のテンションは下がることを知らない。

『Me too !  What´s your name ?』

クッソ、中国人美少女のアドレスを聞きたいのに、なんなんだよこのおやじは…。

だからといって無視することもできないし…。

「My name is O

『それじゃあ私たちはこの駅でおりるね~、再見~^^』

「えっ、ちょ、ちょっとまっ…」

Davidと楽しくトークをしている間に、中国人美少女は途中の駅で降りて行ってしまった。

うぅ…、せっかくかわいい女の子と知り合えるチャンスだったのに…。

『Hey ! Do you have a question about me ?』

「べ、別にないですけど…」

『Do you have a question about me ?』

「う~しつこい。じゃあ日本へ行ったことありますか?」

『No!』

「あ、そう…」

「…。」

『Next question?』

「いや、もういいですって…」

『Next question!』

あ~しつこい!おやじに聞きたいことなんかないって。

ちなみにこのおやじ、David とかいってるけど別にイギリス人じゃない。れっきとした台湾人なのだ。台湾とか韓国の人って本名以外にクリスチャンネームとかいって西洋人っぽい名前も勝手につけちゃうらしい。つけるのは自由だけど、もう少し考えてつけようや…。

やっぱり David とか言われたら(元サッカーイングランド代表)を思い浮かべちゃうじゃない。さすがに抗議が来ると思うよ。

結局、阿里山の集落の駅まで質問攻め(というか質問しろという強迫)にあい、最後のほうは本当に質問に困り「Do you know it?」とかいって神社の絵とかパンダの絵をゆびさす(会話帳にのっていたのだ)などという珍妙なやり取りをする始末。

『If you come Tipei, please call me! HaHaHa!』

HaHaHa…。悪い人じゃないんだろうけど、まったく困ったおやじだ。まだ朝の7時なのにめっちゃつかれた。

後日談になるが、この旅の最中、見慣れない携帯番号から頻繁に着信があったがもちろん無視をした。どうせDavidだし。

 

 Davidとの慣れない英語でのトークでとんでもなく疲れた僕は、とりあえずセブンイレブンで朝飯を買い(さすがコンビニ大国台湾、標高2,000メートルの山中にもセブンイレブンがある!)チェックアウト時間ぎりぎりまで部屋でゴロゴロすごし、その後阿里山自慢のハイキングコースを散歩したのち、午後の嘉義行き阿里山森林鉄道に乗り込んだ。なお、ハイキングコースの模様は、googleとかで『阿里山 ハイキング』とか検索するといろいろな旅行記がヒットするのでそちらを見ていただきたい。象の形をした木とか雲海が見えるお寺とかあって楽しい人には楽しいと思います。

ただ、基本的に熱帯に住む台湾人向けのハイキングコースなので、彼らにとっては温帯の植物の中のハイキングは楽しいかもしれないけれど、温帯育ちの我々には日常見慣れているというか。ようするに普通だった。

 

さて阿里山森林鉄道で3時間かけて嘉義へと戻ってきた僕は、あいかわらず駅前に屯している農林水産省幹部職員(おばちゃん)を横目に今度は正規の切符売場へ直行。嘉義からさらに南下し、台湾第4の人口を誇る台南へと向かうことにした。

『地球の~』によると、台南は台湾で最も早く開けた街であり、日本で言う京都のようなポジションに位置するところらしい。街の至る所に廟(日本で言う神社とかに相当?)があり台北や台中なんかとはまた異なる雰囲気を醸し出しているとのこと。無類の京都好きの僕としてはちょっと楽しみ…。

嘉義から特急列車で1時間ほど、台南の街は夕方だというのに気温が25℃近く蒸し暑かった。

12時間前は「身も心も寒い!」なんて言っていたけど、実は暑いのも苦手な僕は早いとこクーラーで涼しむべく宿探しを開始した。

 『地球の~』の台南のページには、他の街とは異なりあまり安宿が掲載されておらず、仕方なく今日はちょっと高級そうな(それでも掲載されている中では1番安い)宿へ特攻することにした。まあ今日ぐらいいいでしょ。

「Hey! Do you have a room for tonight!?」

↑ Davidに影響されて珍しくテンション高い。

『Oh、sorry full book…』

…。

えっ…。

まずい…、英語が通じないことは多々あったけど、予約でいっぱいで断られたのはじめてだぞ…。

 さっきも言った通り、『地球の~』にはここより安いいホテルは掲載されていない。あるのは阿里山賓館並みの超高級ホテルだけだ。さすがにそんなところに泊まってしまったら、明後日くらいには旅費が尽きリベンジできぬまま帰国の途に着かざるを得なくなる。というか今日は土曜日、ここ台南は台湾随一の観光地、ということはどの宿も満室なのでは…。

 まずい、こんな情報も何もない街で宿探せってか…。そんなの英語も中国語も分からない自分にできるわけないじゃn

 はっ、そうだそういえば昼間…

(以下ハイキング中の出来事を回想)

 

『今日はどこまでいくんです?』

「まあ嘉義まで戻って、いけたら台南ですかね」

『ああ、台南ね、あそこガイドブックに安宿のってないでしょ?実は駅周辺に結構安宿あるんだよ。困ったら駅周辺を歩いてみるといいよ!』

「へえ~」

 

(以下現実に戻る) 

そうだ、阿里山ハイキング中に偶然出会った日本人男性にそんな情報を得ていたではないか。なんという偶然。なんかこうやって情報を仕入れながら旅していくなんてRPGみたいだよね!RPGなんてやったことないからよくしらないけど。

 優しい日本人男性からの情報をもとに僕は早速駅前へと向かった。というか、わざわざ駅前まで行かなくてもよく見ると安宿は至る所にあった。

とりあえず目についたいかにも安そうな宿へ特攻してみる。よし、それでは…。

「Do you have a room for tonight?」

『あっ?』

フロントにいたおばちゃんは僕の英語が聞き取れないというよりは英語そのものになじみがなさそうな感じだった。見た目駄菓子屋のおばあちゃんっぽいもん。駄菓子屋のおばあちゃんが急に流ちょうな英語を話しだしたらそれはそれで事件なので、例の秘密兵器『指さし会話帳』で交渉することにした。

『是~是~。一人ならあいていますよ!』

ホッ…、よかった。確かにこの宿、見た目はあまりきれいとは言えないけど、フロントのおばちゃんも、どこからか出てきたおじちゃんも人がよさそうだし、まあ良しとしよう。

 というわけで、人生初のガイドブックに頼らない宿探しはあっけなく終わった。というか毎日宿探しをネタにしている旅行記ってどうよ。

 

 さて、Davidとのトークやハイキング、宿探しでとんでもなく疲れたので、今日はどこにも食べに行かず、宿近くのコンビニ(サークルK)でカレー弁当やカップめんを買い込み部屋でほげほげ過ごすことにした。ここの宿、外観も部屋も確かにしょぼいけど、テレビだけは最新式で100くらいのチャンネルを見ることができた。その中にはもちろん日本のドラマを永遠に流し続ける局も含まれている。観月ありさの時間である。

 

ピッ!  ← チャンネル変える音

ピッ!ピッ!

…。

あれ?

ピッ!ピッ!

…。

あれ…?やってない。

だって8時じゃない。いつもならこの時間にはありさがCAの格好して出てくるのに。なんで今日は日本の深夜にテレ東とかでやってそうなオタク向けアニメなのよ。

あわてて阿里山で買った「りんごちゃん新聞」のテレビ欄を開いてみるが、そこにありさの文字はなかった。

落ち着いて考えれば分かることなんだけど、今日は土曜日。当然平日とはテレビ番組の編成も異なるのである。

大誤算だ。台湾に来てからというもの毎晩ありさのドラマを見ることで時間を潰していたのに、することないじゃん。一人旅ってのはこういう時に辛いのだ。ユースホステルとかならまだ誰かしらとトークして暇つぶしできるかもしれないけど(外国語はなせないくせに)、ここの宿ではフロントにいた駄菓子屋のおばちゃんくらいしか話し相手はいない。しかも言葉通じないし。退屈。

チャンネルを変えてみても変なバラエティとか朝まで生テレビの台湾版みたいなのばかりで、面白いか面白くないかという前に第一言葉が分からない。唯一ちょっとエッチなチャンネルだけは意味がわかりそうだったけど、一人の夜がさらに寂しくなることが予想されるため自主規制。

退屈だ。

終いには暇つぶしと称して伸びた前髪を自分でカットしだす始末。おまけに切りすぎてしまい余計に持病の天パがひどくなりロナウジーニョ(ブラジル人サッカー選手)みたいなちりちりな前髪になる始末。

あ~暇だ…。

と、その時…

ピンポーン  コンコン

突然、部屋のインターホンが鳴り、誰かがドアをノックした。

だ、誰だ…。

当然、こんな時刻に尋ねてくる友人はこの台南にはいない。というか日本にもいない。

こういう時は居留守に限る。

ピンポーン  コンコン

お、また鳴ったぞ…。マジで誰だよ…。

怖くなった僕は、勇気を振り絞りそっとドアの前まで行き覗き穴で外の様子をうかがってみた。しかし、そこには人の姿がない…。おかしい…。そして三度鳴るチャイム…。

…と、学校の怪談でありがちな展開にはならず、ドアの向こうにはフロントの人のよさそうなおじちゃんが立っていた。ビックリさせないでよ…。

「はいはい、おじちゃん、なんでございましょうか?」

『日本人!○★◎●×!』

彼は僕が理解できないにもかかわらず中国語でなにやら話し出した。

「おじちゃんおじちゃん、僕は中国語分からんのよ」

すると彼は自分の小指を立て、急に声をひそめてこういった。

『日本人、おんな、lady(ヒソヒソ…』

「!?」

なんて親切なおじちゃんなんだろう。僕があまりに暇を持て余していることをしってか、なんとエッチなお店を紹介してやろうと言ってきたのだ。というかどうして暇を持て余してるってわかったんだろ。さっきエッチな番組見ていたのばれたのだろうか。

『おんな、you want?(ヒソヒソ…』

フフフ…。おじちゃん、あんたはできた支配人だ。というかここに泊まった日本人は今までエッチなお店を紹介しろとあなたに迫ってきていたんだろ。つまり彼の頭の中では「日本人=エッチ」という構図が出来上がっていたと容易に想像できる。だからこそ、なにも言われなくとも、日本人がやってきたらとりあえずエッチなお店を紹介することにしているんだ。大正解だぞ、おじちゃん。僕は確かに女の子が大好きだ。

 しかし、おじちゃん、オレを他の日本人と一緒にしてもらっては困る。一人寂しそうにしているし、いかにもエッチなお店が好きそうに見えたのかもしれないが、それは大きな誤算だ。

 いいかおじちゃん、よ~く聞け。

 僕は、そんじょそこらの日本人旅行者と違って、人一倍臆病だ…。

 こんな異国の地でそんなお店にいく勇気、あるわけがなかろう…。

「不要…(そんなものいらないんだぜ…)」

僕はおじちゃんにそうつぶやくと、ブラジル人サッカー選手のようにちりちりになってしまった前髪を何とかする作業へと戻って行った。

悶々とした気分のまま…。