台湾リベンジ 第13夜 基隆

2008年1月27日

帰国便が飛び立つまであと48時間。

昨日台湾一周をはたしてしまったため。時間はたっぷりある。

ユースを10時半ごろチェックアウトし、曇り空の中、台北駅前にある国光客運バスターミナルへと向かう。今日は台湾有数の観光地である九份へと行くのだ。

しかしねむい…。睡眠時間3時間ちょっとだもん…。

結局、昨晩(というか今朝)は6時過ぎにようやくベッドに入ったものの、どういうわけか9時半ごろには目が覚めてしまい、2度寝をするとユースで寝たきりになっている浮浪外国人バックパッカーと同化しそうだったためそそくさとユースを後にしたのだ。

そそくさと逃げ出した理由はそれだけではなく、アラフォー氏に発見されると9時間は解放されないので、となると、今日は夕方6時まで監禁される可能性が強い。それだけは勘弁だ。

あのハーフさんは大丈夫だろうか。多分同室だったことだろうし。死んでんじゃねーかな、彼女…。

そう考えると、宿で寝たきりになっている外国人バックパッカーたちも、連日、アラフォー氏のトークを聞かされていたのではないかという気がしてくるが、正直、昨晩のことは記憶から抹消したいのでこの話題はなるべく取り上げないことにしようと思う。

さて、遠くに台北101を望みながらバスで爆睡すること1時間。雨の街として有名な基隆へと到着した。

九份へ行くにはここでバスを乗り換えなければならないのだが、さすが雨の街とう異名をとる基隆、台北から数十キロしか離れていないにもかかわらず土砂降りであり、バスから降りて2分でこの街が嫌いになった。

冬の時期、台湾北部から東部にかけては雨季であり、毎日なんだかんだで雨が降る。その中でもここ基隆は年間300日以上雨が降る正真正銘の雨の街。天然パーマの人間に聞いたら満場一致で住みたくないと答える、そんな最悪な街なのだ。

基隆でバスを乗り換え、20分ほどで到着した九份は、観光客であふれており、そしてもちろん土砂降りであった。

ここ九份が人気を博している理由は2つ。1つは細い通路や坂が入り組んでいる街並み。もう1つは高台から見下ろす瀬戸内のような風景である。特に、後者は九份にくる観光客の大半がお目当てにしているだけあって、それはそれは絶景だそうだ。

なお、先ほども述べたとおりここ九份は土砂降り。大勢の観光客が全員傘をひろげているため、自慢の狭い通路は大混乱。

外は靄がかかっているため自慢の絶景も全く見えない、という考えうる中ではもっとも避けたい状況の中を僕は訪問してしまったため、その辺にあるお店で餃子とチャーハンを食べ、おみやげ物には目もくれず、1時間ほどで九份を後にしたのだった。何しに来たんだろう…。

そういえば、帰りのバスの中で、先ほどの餃子代を400円ほどぼられている事に気づくというちょっとしたトラブルがあったのだが、もう眠いのと雨がめんどくさいので泣き寝入りすることに。アラフォー氏が憎い。

 

基隆に戻ってきたときには、僕はすでに昨晩の疲れと眠気、そして雨でふらふらになっていた。その姿はさしずめ生ける屍のよう。しかしそれでも今日の宿探しをしなくてはならない。

基隆のバス停から橋を渡り、街の中心街までもはや死に体となりながら歩くこと10分。ようやく到着した街の中心には、そこそこの規模の街なだけあり、そこら中にホテルの看板がみえた。

よし、今日はちょっと良いホテルに泊まろう。疲れているし、眠いし…。

しかし理由はそれだけではなく、今日はなんと言っても夕方と夜に一大イベントがあるのだから。

一つ目は日本時間午後5時半(台湾では午後4時半)から大相撲初場所の千秋楽。朝青龍白鵬の優勝決定戦である。

そしてもう一つは、日本時間午後8時(台湾では午後7時)ごろにわかると思われる大阪府知事選の投票結果発表である。

…。

なんですか?

十分仰々しいでしょ。優勝決定戦だぞ。大阪府知事選で橋本が勝つかもしれないんだぞ。

この2つの大イベントをこの目で見るためには、NHKの映るテレビが設置されている部屋を確保することが絶対条件である。ここまで泊まってきた宿は、ある程度安いところでもNHKを見ることができた。しかし、より確実に視聴するためには、ある程度高級な宿へ泊まるほうがよいのではないだろうか。

というわけで、街の中心街に位置する、しっかり『地球の~』にも掲載されている2000元くらいの宿へと僕は特攻した。昨日お金がないようなことを言ったが、そこそこ立派な宿ならカードが使えるはずである。

「にいはおー。今晩とめてくださいー」

『にっ…、にいはお~(ちょっと引きつった笑顔で)』

いわゆる中級レベルの宿に薄汚い格好をした旅人は不釣合いなのだろう。受付のおばちゃんは完全に引いていた。

なんだよ…、汚い旅人は泊まっちゃいけないのかよ…、ユースのようなところがお似合いだって言いたいのかよ。

しかし、その態度に反して、おばちゃんは最上階の特別室を用意してくれた上に、宿泊料も1000元と大幅に値下げをしてくれた。

部屋も広いし、テレビも大きい。そしてベッドはなんとダブルだ。

おいおい、これで1000元か?昨晩のユースなんか雑魚寝に拷問付で800元だぞ。200元しか違わないのになんだよこの差は。

確かにダブルベッドに男1人で寝るというのは全く色気のない話だが、昨夜(というか今朝)の睡眠時間がわずか3時間という僕はベッドを広々と使いとりあえず爆睡した。

そして、午後の4時半(日本時間午後5時半)…

いよいよ大相撲初場所の最後を飾る優勝決定戦の幕開けである。

僕はテレビの前で正座し、ゆっくりとスイッチを入れ、チャンネルをNHKにあわせた。いよいよである…。

…。

さあ時ザザー間いザザーザザーい!

はっガガーピピーい、のこっザザー

「…。」

ガガー龍両差し!ガガーピピー差しガガー

ああ!しかガガー白鵬ガガー堪える!堪えて上ピピピーげ~!

ザザザー勝~!

…。

白鵬がかったんだよね?

決まり手は?なによ、上ピピピーげ~って?新しい決まり手?

…。

おいおい電波状況悪すぎだろ…。

画面も砂嵐が混じってよくわからないし。

台中とかの安宿でも普通に受信できたのに、中級ホテルの特別室でこれかよ。

何をやってもダメな日ってあるんだよ。アラフォーに始まって最後はこれだもん。

世紀の一戦を見逃した僕は、不貞寝しようかと考えるも、白鵬並みの粘り強さでぎりぎりのところで踏みとどまり、夕食を買いに雨の街へ出かけていったのだった。

 

さて、帰国便が飛び立つまであと1日とちょっと。マクドナルドで買いこんだお馴染みの阿羅州バーガーをダブルベッドに寝そべりながら食べ、大阪府知事選の結果を見ながら明日の予定を考える(なお、雨が小降りになってきたからなのか、テレビの映りは幾分増しになっていた)。

明日一日は完全にフリーであるが、正直もう行きたいところがない。

帰国便は明後日の朝9時発なので、遅くとも7時までには空港にいたい。となると、早朝6時発に台北駅前を出発するバスに乗らなくてはならないため、明日の晩は台北で一泊することが絶対条件となる。

ということは、明日は早々に台北入りし宿を確保、その後台北及びその近郊で時間を潰すというのがベストの選択である。

しかし、正直、台北周辺の見所で興味を惹かれるところはあまり無い。というか無い。

台北は人が多いんだもん。しかも雨だし。もっとこうカラッと晴れた場所で旅を締めたいよね。

そんなことを考えたとき、ふと頭の中にある風景が横切った。

 

駅舎から延びる一本の道…。

 

その両側には木々が生い茂る…。

 

子供たちは声をあげて遊び、一匹の犬が道路の真ん中で昼寝している…。

 

そう。1週間ほど前に訪れた台南近郊の保安駅だ。

改めて写真を見返してみたが、やはり良い。

あの雰囲気をもう一度味わいたい…。

…。

いやいやいや。それはダメだ。時間もお金も無いのに何を言っているのか。

はっきり言って、台南近郊に位置する保安駅なら、台北から片道4時間ほどで行けるため、日帰りできないこともない。

しかし、仮に台南往復できたとしても、台北に戻るのはきっと夜になるだろう。そうなると宿が見つからないという事態にも陥りかねない。

そして、僕は現在、金銭的にかなり厳しいため、台南往復の切符を買うと、その日の宿代が払えなくなる恐れがある。

以前にも言ったとおり、台北は物価が高いためそこそこの宿に泊まるには相当の出費が必要となる。安宿はゴ○○○の巣窟のため最初から無視だが、だからといってユースに泊まろうものなら再びアラフォー氏の餌食となる可能性が大いにある。(高い宿に泊まってカード払いすればいいじゃん、と考える人もいるだろうが、この時の僕は考えもしなかったのだ。)

以上のことを踏まえると、はっきり言って台南行きは不可能なのだ。

第一、せっかく1周したのにもう半周しちゃうなんて馬鹿げている。

やはり明日は台北近郊で過ごすのが一番いいのだ。

 

さあさあそうと決まったら早く寝よう。橋本も圧勝したことだし。

さっさと歯を磨いてダブルベッドに入り込む。

しかし、目を瞑ると浮かんでくるあの風景…。

 

駅舎から延びる一本の道…。

 

その両側には木々が生い茂る…。

 

子供たちは声をあげて遊び、一匹の犬が道路の真ん中で昼寝している…。

 

 

目を瞑ると浮かんでくる例の風景を何度も消し去っているうちに僕は眠りにつ

いた。

そして、旅の実質的な最終日。

激動の一日が幕をあける。