台湾再訪@豊田駅

3年ぶり7回目の台湾で、僕は初心に返ることを決意し、台北到着後、すぐさま東部方面行きの電車へ乗り込み、7年ぶり4回目の花蓮訪問となったのである。

おなじみの日本語が話せるおばちゃんの宿に投宿した翌日、僕は日本時代の痕跡をたどるため、台東県にある日本の神社跡を訪れた。

駅から20分ほど歩いた住宅地にある小高い丘。そこには鳥居や灯篭、そして参道がそのまま残っており、タイムスリップしたかのような不思議な時間を過ごしたのである。

さてその帰り道、僕は豊田村へ立ち寄ることにした。

1度目の台湾の旅で訪れた日本統治期の神社後が残る村。僕が台湾に大はまりする要因の一つともなった村へ再訪である(8年ぶり2回目)。

花蓮行きの急行列車を豊田駅で下車。

駅前には驚くほど何もなかった。

早速グーグルマップを起動させ、例の神社跡へ再訪だ。

台湾初訪問から8年、旅もIT化が進んでおり、スマホという文明の利器を手に入れた僕に迷子の二文字はなかった。

グーグルマップの指示通りに、一面に田んぼやサトウキビ畑の広がる風景の中を20分ほど歩く。実にいい雰囲気である。

前回は花蓮からタクシーでやってきたため道中の雰囲気を味わう暇はあまりなかった。やはり旅は歩いてこそだ。

その時である。

ワンワン!!

もう少しで神社跡に到着というところで、突如野犬と遭遇だ。そういえば前にきたときにもいたよなあ。8年の時を越えて、奇跡の再会である。

おそらくどこかで飼われているのだろうが、鎖でつながれてもおらず、実に自由奔放だ。まるで神社を守る番犬のごとく、僕の行く手を阻もうとする。

僕もバカではないので、別の道を迂回し神社跡へ行こうとするのだが、どの道を通っても彼らは姿を現す。

…。

僕は野犬が嫌いだ。いや、野犬好きのやつがいたらあってみたい。

彼らの脅威におびえた僕は、もう神社なんてどうでもいいんじゃないかという気持ちになり、あっさりと退散した。神社跡など関係ない。この村の雰囲気が味わいたかったのだから。

さて、結局1時間もせずに豊田駅へもどってきた僕は、時刻表をみて心底驚いた。

次の電車は驚きの3時間後である。

花蓮行きの特急や急行はかなりの頻度で走っているのだが、豊田駅のようなローカル駅にはほとんど止まってくれない。基本的には鈍行列車しかとまらないのだ。しかし、3時間ってどうだ…。佐久間かよ。

先に書いたとおり、駅前にはなにもない。ほんとうにコンビニ1ですら件もない。

どうしよう…。

とりあえず、駅前のベンチに座って、スマホでネットサーフィンである。

しかし、グーグルマップを起動させ続けた結果、バッテリーの残りは30%を切っていた。電池切れだけは避けなくてはならない。

どうしよう…。

スマホが使えないのなら歩くしかない。(ちなみに本類は宿におきっぱなしだ。)

もしかしたらなにかお店があるかもしれない…。一縷の望みにかけ、僕は再び神社方面へと歩き出した。

列車出発まで、あと2時間50分…。

 

小一時間さまよい続けた結果、なんと駅の反対側へ抜ける道を発見した。

そこは大きな道路に面しており、すこし離れたところにはコンビニもスーパーもあるではないか。初めから駅の反対側へでればよかったのだ。

1/2の選択を誤った僕は、駅のおもて側(つまり神社跡の方)へ永遠歩いていき、灼熱のなにもないサトウキビ畑の中(季節は夏)をさまよい続けた。

しかも、途中すれ違ったマイクロバスが、豊田駅花蓮駅とを結ぶ、日に2本だけ設定されていたバスだということに気づかないという失態も犯していた。

駅の反対側へ行くことに成功した僕は、とりあえずコンビニへ入り、イートインコーナーでアイスを食べながら休憩。

冷房とアイスで体力を回復したのち、となりのスーパーでお菓子を買い、外のベンチでぼりぼり。だいぶ時間も過ぎただろうと時計を見てみれば、列車の発車時刻までまだあと2時間。ぜんぜん時間がたたねえ…。

ネットでみた「5億年ボタン」というちょっと怖い漫画のことを思い出した。100万円もらえる代わりに、5億年もの長い時間を、寝ることも気を失うことも許されず、ただただ過ごすというお話。豊田駅での1時間ですら耐えられない僕には、5億年なんて絶対に無理だ。

ふとベンチの横を見ると、UFOキャッチャーがおかれていた。なんとも懐かしいそれに200元ほどお金をつぎ込む。200元といえば日本円で800円だ。しかも一個もとれねえ…。

野犬と戯れ、サトウキビ畑の中を歩き回り、コンビニでアイスを食べ、UFOキャッチャーに散財する。これだけ充実したメニューをこなしても、列車が来るまでまだ1時間以上もあるのだ。

以前の旅行記で、この村を「時が止まったかのような村」と書いた気がするが、本当に時間が進まねえ…。というか、まさかこの村は本当に時間が止まっているのでは?もしかしたら、抜け出せないのではないだろうか?

世にも奇妙な物語」で「峠の茶屋」というお話があった。都会暮らしの女性が気分転換に田舎を訪れ、峠にある茶屋で「こんな田舎にくらしたーい」なんてことをいったら本当に抜け出せなくなってしまったという内容だが、まさにいまの僕の状況そのままである。

駅のホームで僕は頭を抱えた。

列車到着まで、まだあと1時間30分もある…。