ゆとり合宿@韓国

 


学生時代に僕が加入していたサークルでは、毎年「海外合宿」を行っていた。

「海外合宿」と言えば聞こえはいいが、ようするに、ただの旅行である。

僕が加入してからは、グアムと香港という、合宿を行う場所とは到底思えないリゾート地で合宿を開催した。しかも、旅行会社のパックツアーを利用しており、労せずに旅行できてしまうよ。

これでよいのか?いや、これではいけない。

と、3回生になった僕は合宿の在り方に異を唱え、変革を試みた。そして、その過程で部員が次々と辞めていった。改革に犠牲はつきもの。仕方がないことなのである。しかしながら、まさか僕以外の部員が全員辞めてしまうとは思わなかった。学生のサークルとしては前代未聞の事態。これでは合宿ではなく、ただの一人旅である。

それでも、負けじと勧誘活動を継続したところ、翌年、5人もの新入部員を得るに至った。そして、新制メンバーで行ったのが、伝説の台湾合宿なのである。

このあたりの話については、「台湾紀行」に詳しく書かれているが、「荒々しい旅」を終えた僕らは一回り頼もしくなり、わが部も新時代を迎えた、かに思われた。

しかし、あの荒らしい「台湾合宿」の翌年、組織として大事な2年目にも関わらず、後輩たちは「韓国パックツアー合宿」を実行するに至った。

旅行のすべてを自分たちで行う、あの男らしい合宿は、わずか1年で終焉を迎えることとなった。悲しきことである。これが「ゆとり世代」と言うものなのか。先輩はかなしいよ。

と、一人うじうじしていた僕を、後輩たちは合宿に誘ってくれた。

学部を卒業し、大学院に進学したくせに授業には行かず、そのくせ部室には毎日のように現れる、じつに面倒くさい先輩を、後輩たちは誘ってくれたのである。なんと良き後輩たちであろうか。ゆとり世代万歳。

というわけで、僕はゆとり世代が計画した「韓国パックツアー合宿」に参加することとなったのである。2007年の11月のことだった。

 

 

仁川空港に到着した我々は、案内人の運転するマイクロバスで、労せずしてソウル市内のホテルへチェックインだ。

昨年の台湾合宿を文章化した時には、空港から台北市内へ向かうくだりだけで2ページぐらい使ったというのに、今回はわずか2行だ。パックツアー万歳。

荷物を置いたら、さっそく街へ繰り出そう。

韓国と言えば焼肉である。先日、一人で釜山へ行った際には、焼肉には縁がなかった。なんで韓国まで来て一人焼肉しなくてはならないのか。おいしい焼き肉を食せるのも、グループ旅行だからこそである。合宿万歳。

焼肉のあとは街をぶらぶらし、アイスを食べたりお土産をみたりと、実に平和に時は流れていく。あの、荒々しい台湾合宿とは真逆の展開である。台湾合宿の1日目の夜は、廃墟のようなゲストハウスで絶望に暮れていたっけ。

ソウルは、やはり首都だけあって、一人旅で訪れた釜山や慶州などの地方都市とはけた違いに都会だった。両腕を組みながら歩くおじさんたちなど、日本では想像もつかない人たちも沢山いた。異文化体験こそ海外旅行のだいご味ともいえる。

 

何事もなく1日目が終わり、そして何事もなく2日目が始まった。

本日は、世界遺産の宮殿みたいなものをまわる。しかもガイド付きである。なんと至れり尽くせりなことか。

秋風が吹く、少し肌寒いソウル市内をまったりと観光する我々。

ケンカもせず、一緒に写真なんぞを撮ってしまう。

なんと平和なことか。

2日目も、実に平和に、そしてあっという間に過ぎていくのである。平和万歳。

 

3日目は各自自由行動の日。

ある意味、合宿の神髄ともいえる自由行動の日なのである。

台湾合宿では、二手に分かれ、地方都市である花蓮にて集合という、荒々しい自由行動をした。

今年の様子はと言うと、あるものはショッピング、そしてあるものはホテルでゴロゴロ。これがゆとり世代なのである。

さて、僕はといえば、後輩のあやふみ氏とともにカジノへ繰り出し、「3,000円+30分1本勝負」と題した、最終的に手持ちのお金が多い方が勝利するという男らしい企画を立てたわけだが、わずか15分ほどで2人も残金がなくなり退散するという大変寒い結果となったのである。

金の切れ目が縁の切れ目というわけで、僕はあやふみ氏と袂を分かち、一人ソウル市内を散策することにした。

当初は、ペヨンジュン氏の聖地でもある春川へいこうとも考えたが、バスで片道2時間ほどかかるため断念し、地下鉄を乗り継いで、国立博物館へと行くことにした。

博物館には、京都の広隆寺にある弥勒菩薩のルーツとなった仏像があり、歴史好きとしては大変満足であった。

その後は特別行きたい場所もなかったので、地下鉄を適当な駅で降り、街を散策してみた。

駅を出ると、日本の集合団地のような場所へ。少し歩けば漢江の川辺に出られた。

漢江と言えば数々の韓国映画に出てくる有名な場所であるが、予想外に川幅が広く驚いてしまった。いかにも大陸にありそうな、とても大きな河川であった。

しばし川べりでほげほげし、集合時間に合わせて東大門市場へと向かうことにした。なんとも平和だ。実に平和な旅だ。

結局3日目も何一つとして事件は起きず、ビビンバを食べ、マクドご当地バーガーを食べ、そしてホテルへと戻り1日は終わってしまった。

 

最終日は空港へ向かうだけなので、なにも起きるはずもなく、本当に平和なうちに韓国合宿は終わってしまった。

昨年の台湾合宿とは雲泥の差ともいうべき、ゆとり満載の韓国合宿。

やはり今どきの若者にはこのような緩い雰囲気の旅が好まれるのであろうか。この後、わが部の部員数はうなぎのぼりに上昇し、現在では20人以上で構成される一大サークルに変貌したとの噂である。わずか数年前に、部員一人、廃部寸前となったのが嘘のようなV字回復。

しかし、やはり僕は、あの伝説的な台湾合宿のような、冒険心あふれる荒々しい合宿の

ほうに魅力を感じるのである。