北國紀行 その5 函館にて

充実の夜を過ごし、これで心残りもなく遠野を発つことができる。

 

「もう寝過ごしちゃだめだよ!」

とみんなにいじられながら宿を出発だ。

 

年上系女子2人と歩きながらバス停へ向かうと、背後から大きな声が聞こえた。

「いってらっしゃーい!またこいよー!」

オーナーさん夫妻とアルバイトの女の子が叫んでいた。旅人への呼びかけは、この宿の名物なのである。

 

「行ってきまーす!」

叫び返す年上系女子2人。

一方で、大きな声を出せず、ただ手を振るのみのコミュ障男子。

人の性格というのは、そうそう変わるものではないのである。

また何年後かに戻ってこよう。

そして、今度はコミュ障を克服し、ここで「行ってきまーす!」と大声で叫ぼう。

僕は心から誓ったのである。

勇気を出して、もう一泊して本当に良かった。

おかげで前向きな気持ちになれた気がする。

 

遠野駅で、未使用の青春18きっぷを払い戻す。

鈍行列車では、とても本日中に函館までたどりつけないので、払い戻したお金で新幹線と特急列車の切符を買う。もうなりふり構わず特急で移動するしかない。

明日は旅の最終日。

明日の昼12時の函館発の飛行機に乗らなければならないというのに、予定外のことで、まだ遠野にいる。

トラブルのない旅など旅ではないのだ!

 

しかし今日中に函館につくために、全く手つかずだった青春18きっぷを売り払い特急列車の代金にするというとっさの判断をよくできたものだ。旅というものは、腐れ大学生をも成長させるのかもしれない。

 

盛岡から乗った新幹線は八戸までしか通っていない。

ここで特急列車に乗り換え、どんどん北上していく。

青函トンネルを抜け、北海道へ入ると、もう夕暮れだった。

右手には、夕日に照らされた津軽海峡が見える。

大変美しく、心に残る景色だった。

ガラガラの車内では、カメラをもった若い男性が何度も何度もシャッターを切っていた。

 

函館についたのは18時過ぎだった。

そういえば宿の予約をしていなかったのだが、勇気を出して駅前のビジネスホテルに特攻し、無事に部屋を確保することができた。

思い返せば、旅に出る前は宿に予約の電話をするのが恥ずかしくて、平泉も遠野も、往復はがきなんぞで予約の連絡をしたものである。

旅は、腐れ大学生をも成長させるのである。

 

ホテルに荷物を置き、薄暗い函館の街を抜け、僕は真っ先に函館山へ登った。

高校の修学旅行で来て以来、3年ぶりの夜景はとても綺麗だった。

夜景が終わったら、今度は坂の街を散策である。

修学旅行の際に見た昼間の風景は大変美しく心に残るものだったが、夜の雰囲気も捨てたもんじゃない。大正時代を思わせるガス灯が灯す坂の街の風景は、心に残るものだった。

 

今回の旅は、なんだかとても印象に残る旅だったなあ。

そんなことを思いながら、今回の旅を終えたのである。