続 北國紀行 その8 白き世界で

真冬日を体験したい。

ただそれだけの目的で函館を訪れたのは、前回の旅から半年後の2月。

仙台の友人宅から新幹線と特急列車を乗り継ぎ函館へ。

そして気まぐれで下車した木古内駅で大いに後悔した。

なんとなく面白そうという理由で降りたはいいものの、駅前には本当に何もなかった。それならばすぐに後続の列車へ乗ろうと時刻表を見てみると、次の列車は2時間後。

乗り継ぎに失敗したため、なにか面白いものはないかと木古内の街を彷徨うが、何度彷徨っても何もない。どうあがいてもないものはないのだ。あるのは路肩に積み上げられた雪の塊だけで、1メートル近く積み上げられた塊は、僕の身も心もいっそう寒くさせた。これが真冬の北海道なのである。

極寒の木古内の街を2時間近く彷徨い、ようやく到着した列車に乗り込んだ時の感動は相当のものであった。列車の車内と言うのはなんと温かいことか。無駄に途中下車した哀れな僕が、これほど快適な空間にいてもよいのだろうか。

と、よくわからないことを頭の中に思い浮かべている間も、列車は函館へと向かっていく。

 

翌日、雪の舞う中を旅行者の義務である観光へ出かける。

気温は1℃。最高気温が氷点下になるのが真冬日の条件なので、今日は残念ながら真冬日体験失敗である。

それでも、雪がびゅーびゅー吹き付けてくる中を歩くのは、温暖な伊豆出身の僕からすると苦行であり、もうこれ真冬日ってことでいいんじゃない?と思うのである。

しかし、雪の降り積もった真っ白な函館の風景と言うのも、大変美しいものである。函館山の麓に立ち並ぶ教会群を歩いていると、ヨーロッパにでも来たかのような錯覚に陥る。

 

すてん!

 

道路に降り積もり、凍結していた雪の塊の上に足を置いた瞬間、見事に転んでしまった。しかも地元のおじいちゃんたちがおしゃべりしている目の前で、である。おじいちゃんたちは気を使って何も触れないでいてくれたが、恥ずかしさでいっぱいの僕は、「えへへ、ころんじゃった💛」とアニメのヒロインが言いそうなセリフを思わず口走ってしまいより恥ずかしさを増幅させてしまったのである。

雪国の洗礼である。

夜になり、函館に来た観光客の義務である夜景観賞に出かける。もちろん一人でである。相変わらず雪の吹き付ける中美しき夜景を眺めていると、真面目に凍死するんじゃないかと言うくらいに寒い。しかし、夏の夜景とは違い、雪で白く染まった函館の街を彩る夜景はとてもきれいで、このまま息絶えても構いやしないぜと言う気持ちになってくる。しかし、女子と一緒にならともかく、男一人で夜景を眺めながら死んでいくというのはあまりに恥ずかしきことなので、なんとか我慢しようと思う。

とにかく、冬の夜景と言うものも、夏の夜景に負けず劣らず美しい物なのである。

 

また翌日。列車を乗り継ぎトラピスト修道院へやってきた。

夏のさわやかな頃とは違い、どんよりとした曇り空の中を修道院へと歩いていく。

並木道の両側にはかなりの雪が積もっており、試しに踏み入れてみると膝ぐらいまで埋まってしまう。これぞ北海道である。

ためしに、ばふっと雪の上に飛び込んでみたい衝動にかられたが、ひとりでやるにはあまりに恥ずかしいのでおとなしく自撮り写真で我慢しておく。

修道院前のお土産物屋さんにある気温計を見てみると、昼の11時で気温はマイナス1℃。真冬日である。これこそ僕が体験したかった世界。しかし、思ったほど寒さは感じなかった。それはきっと、昨日の夜景観賞で生死を彷徨うほどの寒さを体感したからであろうか。

その後も、雪の中にずぼずぼ足をいれて遊んでいたところ、案の定寒くなってきたので、おとなしく帰ることにした。

並木道を駅へと向かうと、海の向こうに雪化粧した函館山が見える。その姿は、とても美しく、寒い中来てよかったなあという気持ちになる。

冬の北國も、やはりいいものなのである。