台湾リベンジ 第3夜 嘉義
2008年1月17日
台湾は島国であり、しかも真中に3000メートル級の山々がそびえ立っているため、鉄道というものはあまり発達していないようだ。地図をみれば分かるように、ちょうど島を一周するように海岸線を鉄道が走っている。しかしその他には昨日乗車した台湾新幹線が台北~高雄を結んでいるくらい。どちらかというと高速バスが発達しているようで、『旅は列車に限る!』と(勝手に)思っている(思い込んでいる)僕にとってはちょっと不満。
しかし昨晩、ありさの声をバックにゴロゴロしながら『地球○歩き方』を読んでいると、とっても魅力的な路線を発見してしまった。
その名も集集線(じーじーせん)。台中から少し南下した二水という駅からでているこの路線は、内陸部の集集村とを結ぶ、台湾では貴重なローカル線。特にこれといった見所があるわけではなさそうだけれど、『旅は列車に限る!』と自負している僕はこの路線を見逃すわけにはいかない。
当然のように寝坊した僕は、10時過ぎにようやく始動。眠い目をこすりながら台中駅へとやってきた。(ありさのドラマに夢中だったのだ。)
この駅、実は東京駅そっくり(正確には10分の1くらいスケールダウンさせたような感じ)のレンガ造りの駅舎で、まだ台湾が日本だったころに作られたものらしい。
台湾には、ここのような日本時代に作られた駅舎が各地に残されているそうだ。そういえば、2年前に北海道で会った台湾人の王さん。彼に見せてもらった台湾の写真にも、日本時代の駅舎や建物がたくさんのっていた。あの時はまだ台湾に対する興味は全くと言っていいほどなく、朝の4時頃まで永遠に写真を見せてくる彼を本気で呪い殺そうかと思ったもんだけれど。
いくら戦前に建てられた駅舎といっても中は改装されていて意外と近代的。案内は電光掲示板に表示されるし、セブンイレブンも入居していた。僕はさっそくセブンイレブンで朝ごはんのパンとお馴染み『リンゴちゃん新聞』買い込みホームへと向かった。
出発前に天気予報をみたので別に今更『リンゴちゃん新聞』を買ってチェックする必要はないんだけれど、実はこの新聞、なぜか日本の芸能記事やスポーツ記事が結構のっていてかなり面白いのだ。
そして、この新聞の芸能欄の隅っこには、『本日の街角美人さん』などという台北とかの街中に歩いているかわいい女の子の写真を撮って、しかもプロフィールなんかまで載せちゃっている実に卑猥なコーナーがある。
もちろん、純朴な好青年である僕がそんなコーナーを見るわけはないのだが、郷に入っては郷に従えというものだ。
台湾の現代文化を毎日チェックするのは当然の行いである。。これでも一応大学院生なのだから(中退したけど)。
さてさて今日の美人さんは…
…。
う~ん、ちょっとケバイ。
本日の新聞は収集対象外ということでということで、さらば!
ちなみに昨日のはとってあります。
そんなわけで、「現代台湾の若者文化に関する一考察」はここまでにして、僕はホームへと向かい、僕の乗車をいまかいまかと待ちわびている3両編成のやたら近代的な列車に乗り込んだ。
行き先は…おっ『集集』と書いてあるじゃないか。普通ならば台中から二水までいったん出て、そこから集集行きの列車に乗り換えなければならないのだけれど、これはラッキー。日に3本ほど走っている台中からの直通列車に巡り合えたのだから。たまには寝坊もしてみるもんだ。
列車は大学生風の女の子たちでやたらに騒がしい。
おぉ、これは交流を深めるチャンスじゃないか…。
…。
『あっ、日本の方ですか?』
「うん、そうだけど」
『わあ!私たち日本大好きなんです!ねっ!(周りに同意を求める)』
『うん^^』
「へー、そうなんだ」
『でも、日本の方がどうしてこんな何もないローカル線に?』
「列車の旅が好きでね。特にローカル線は風情があってとてもいいんだ」
『エ~!私たちも列車の旅が好きで、よく出かけてるんです!もしよかったらご一緒しません?』
「いや、僕は一人でゆっくりする旅がすきなんで」
『え~(´・ω・)私たちもっと日本の列車のこととか知りたいし、旅の話もきかせてほしいんです!ねっ!(周囲に同意を求める)』
『うん^^』
「そこまでいわれたらしょうがないなあ」
『やった~!!』
…。
などという妄想上の会話を脳内で繰り広げていたところ、列車はあっというまに集集駅へと到着した。
いくら『指さし会話帳』を持っているからってそんなにすぐに女の子と仲良くなれるわけない。そんな簡単に仲良くなれるっていうなら日本でも簡単に彼女作って台湾にも2人できている。人生ってのはそんなに甘くないのだ
え、あの女の子たちはどうしたかって?
台中からふた駅目くらいで速攻で降りていったよ!
さて、集集の街であるが、日本統治時代に作られたという駅舎以外は特に見所もなく、だからと言って戻りの列車もなかなか来ないので、駅前のコンビニで買ったポテトチップス(北海道のり塩味)を食べながらフラフラと街中を徘徊したり、こっそり線路に侵入して『スタンドバイミーごっこ』などというカップルや友人となら問題ないかもしれないけれど、一人でやるにはあまりにも不気味な行動をしたりして過ごし、案の定周りのカップルや駅員に不審がられ始めたころ、ようやく到着した二水行きの列車に乗り込み街を後にした。
滞在時間2時間ほど。まあ、このローカル線に乗ること自体が目的なんだから良しとしようではないか。
二水からは、実にいいタイミングでやってきた急行列車に乗って嘉義へと向かうことにした。
嘉義。昨年第一の寄り道ポイントとして挙げておきながら高速バスで深夜、あっという間に素通りしてしまった因縁の街である。この街にももちろんリベンジしなくてはならない。
嘉義に到着するほんの少し前、列車は南回帰線をこえ、ついに僕は気候の区分上で『熱帯』に属する地帯へと侵入することに成功した。
『熱帯』
この言葉から連想するものといえば…。
どこまでも続く熱帯雨林のジャングル…
その中を闊歩する野生動物、トラ、ヒョウ、ゾウ…
彼らを狙い走り回る原住民のみなさん…
蒸しかえるような暑さ…
その中を、危険を顧みず進む一人の日本人…
そう、熱帯と言えば冒険であり、危険がつきものなのだ。だってトラとかでるんだよ?その熱帯にいま、僕は足を踏み入れたのだ。
といっても、そんなことが現実にあるわけもなく、嘉義の駅前は、ジャングルもないしトラもいないし。熱帯を感じさせるものといえばこの蒸し暑さと街路樹としての機能を果たすヤシの木くらい。至って普通の地方都市のといった感じの風景が広がっているだけだった。トラなんてそんなのいるわけないでしょ。
…。
ハァ…。
まあいいや。
さて、時刻は午後の5時、早いところ宿探しへ行きましょう。
とりあえず今日は、『地球の~』に書いてあった宿へと向かうことにした。その名も『嘉冠大飯店』。冠なんてえらく豪勢な感じのする名前だけどお値段は驚きの700元。日本円で2,500円くらい。そして何より『※日本語が通じます』と書いてある。
これ重要。昨日は英語が通じないばかりに、値切ろうとしたのに逆に値段を釣りあげられ、しかも言い値でOKしてしまった。もうあんな悪夢はみたくないんだ。
嘉義駅前の細い路地を入り、工事中の道路を横切ると、嘉冠大飯店の神々しい姿が…。8階建てくらいで結構大きな建物、でもよく見るとヒビとか入ってら。でもこの際ヒビぐらいどうでもいいんだ。無事に日本語が通じて部屋へとはいってありさを見ることができれば…。
念のため『指さし~』の『ホテルに泊まる』ページに指を挟み、万全の態勢で挑む。いざ出陣!
「にいはお!」
『は~いにいはお!お~日本人?いらっしゃ~い!』
うぉぉぉ!日本語だ!日本語はなしてる!
「いっ一泊したいんスけど…」
『おっけ~い、だいじょぶですよお!』
宿のおじさんはその後も流ちょうな日本語で対応をしてくれた。
うぅ、よかった…(ちょっと涙ぐみながら)
さあ宿をとったら次は飯だ!
実は飯に関しても昨日ちょっと苦い体験をしたのだ。
飲食店に一人で入ることのできない臆病者の僕だったが、その現状を憂い、一念発起して昨日は夜の街に繰り出したのだ。しかしやはり人がたくさんいるお店は入りづらい。
なぜそんなに飲食店に怯えているのかというと、
1.何といって入店すればいいのかわからない
2.何といって注文すればいいのかわからない
3.何といってお金を払えばいいのかわからない
4.それら一連の流れを客に見られるのがいやだ
ようするに中国語が分からないもんで入りづらいだけなのだ。う~ん、いま思えばなんて小さな人間なんだろう。
しかし、今日こそはいける気がする。いや、いかなければならない。この旅のテーマは「リベンジ」なのだから。
宿から10分ほど、街のメインストリートを歩くと一際目立つ黄色い看板を発見。『地球の~』にも載っている鶏肉飯の有名店だ。
鶏肉飯は嘉義の名物料理、嘉義と言えば鶏肉飯、鶏肉飯といえば嘉義というほど有名な料理、かどうかは知らないけれどとにかく嘉義の郷土料理であることだけはたしか。
店を覗いてみると、地元客であふれかえっている。席は…、おっちょうど一つあいているぞ。千載一遇のチャンス。流れは確実に来ている…。
『指さし~』の『食事へ行こう!』のページに指を挟みいざ出陣!
「にいはお」
『に、にいはお…(突然入ってきた190㎝の男に一瞬怯える店のおやじ)』
「にいはお」
『に、にいはお…。う、うちの店にな、何のようですか…』
「これを…(メニューを見せての欄を指さす)」
『う、うちはここから退くことなんて考えてな、エッ、メニューをみせて…、あんたメニューがみたいのか!』
「(コクリ)」
『め、メニューなら壁に貼ってあるが…だ、だからってうちの店は渡さな』
「これを…(鶏肉飯を指さす)」
『エッ、とりにくめし…、あっあんた鶏肉飯が食いたいのか!』
「(コクリ)」
『あ、あんた地上げ屋じゃないのか…』
「(コクリ)」
『だったら最初から言えって!てっきり地上げかと思ったぞ!』
「だって…(´・ω・)」
地上げ屋に間違われるというハプニングこそあったものの、なにはともあれ注文に成功した僕はあいている席に案内された。
ちなみに、この一連の寒いやり取りは完全に僕の創作であり、実際には無言でメニューを指さし店長が何か捲し立てるのを無視して着席するという、まったく盛り上がりに欠ける展開だったのだが、それでも、僕と店長とのやり取りは相当目立っていたのだろう。席についてからも僕は周りの客の注目を一身に浴び続けていた。前の席のガキなんかず~っと僕のこと振り返ってみてきやがったもん。シッ!見世物じゃないんだよ。
苦労して手に入れた鶏肉飯は、ご飯の上に鶏肉の塊が乗っけてたれをかけただけの実にシンプルな、貧乏学生なんかがよく作っていそうな料理だったけどめちゃくちゃ美味かった。
宿も無事に取れ、飯も外で食えた。
というか、そんなんでいままでよく一人で中国とか韓国いけたな…。