続 北國紀行 その7 遠野での話

青森からさらに南下をつづけた僕は、ついに岩手県へ侵入。

昨年も訪れた民話の故郷遠野を再訪だ。

 

遠野では、例の宿で2泊3日を過ごし、あいかわらず姨捨山やち●こをかたどった神様を眺めて満喫したのだが、2日目の夜にこんなことがあった。

夜の雑談タイムの時、突然怖い話になり、なんとなくの流れで、カッパ淵へ行くことになった。メンバーは僕と、年上の青年。女子もいないのによくも行く気になったもんだ。でも、旅に出るとテンションが上がってしまうよね!

 

何が楽しくて野郎二人で肝試しをしなくてはいけないのか。そんな疑問すら浮かばないくらいテンションが上がっていた僕たちは、「うえーい」となれない奇声をあげながら、真っ暗なあぜ道をカッパ淵目指して歩いて行った。

カッパ淵はお寺の境内を抜けた場所にある。

山門を抜け、境内に侵入すると、なにやら本堂から女性たちの声が聞こえてくる。

見つかって面倒くさいことになっても嫌なので、そろりそろりと境内を抜けていく2人。

カッパ淵はこんな夜中に訪れる場所ではないので当然真っ暗闇。ライトすら持ち合わせていないダメダメ系男子である僕たちは、とにかく光を求めて、カメラのシャッターを切りまくり、フラッシュをたかせまくった。阿保である。

カメラをぱしゃぱしゃしながら、カッパ淵を進む阿呆ども。

「あれ?」

すると突然、年上系男子が突然歩みを止めた。

「どうしました?」

「ここだけシャッター降りなくない?」

何を言っているのだろうこの人は、と思いながら僕もシャッターを押してみるが、ある一定の場所だけおりない。えっ、なにこれ。おばけ?

なんだか怖くなってきてしまったダメダメ系男子たちは、名誉ある撤退を決意。

女性の話し声が響く境内を、来た時と同じように、そろりそろりと抜け、来た時とは真逆の沈み切ったテンションで宿へと急いだのである。

 

さて、宿にもどり、ことの顛末をオーナーさんに話すと、オーナーさんはつぶやいた。

「あれ、あそこのお寺って女性住んでたっけ?」

「…。」

「それに、今日は法事で、だれもいないはずだけどなあ」

「…。」

怖ろしくさのあまり、ぶるぶる震えだすダメダメ系男子たち。

きっと、宿のオーナーさんが僕たちを怖がらせようとしているだけさ。きっとそうさ!お化けなんてうそさ!

そう自分に暗示をかけ、冷静さを取り戻した2人。

しかし、部屋にもどりデジカメの記録を見てみると、なにやらオーブがたくさん映っており、お化けは本当にいるんだなあ、と実感し、またぶるぶると震えたのである。

そして翌日の昼間、懲りずにカッパ淵を訪れた僕は、シャッターが下りなかった場所に小さな祠を発見し、お化けの存在を信じるしかなくなったのである。

 

お化けとともに過ごした3日間ののち、僕は仙台に行き、中学校時代の友人とグダグダして過ごした。

彼の大学へ出向き、鮨や牛タンを喰らい、夜遅くまでパワプロで遊ぶ。

そして、いい具合に昼夜逆転したあたりで、旅を終えることにした。

 

合計で16日ほど。

まったく予定も決めず、気の向くままにぶらぶらと。

なんとも自由な旅だったなあと思いながら、仙台港から帰りのフェリーに乗り込み、大阪へ戻ったのである。