台湾リベンジ 第10夜 花蓮

2008年1月24日

台東の夜は長い。

まして外の散策もテレビ鑑賞も不可となったこんな夜はさらに長く感じる。

ベッドに寝転がり、今夜のエンジョイメニューを考えてみたところ、カラオケ、しりとりなどの楽しい企画が浮かんだが、一人するとなるとちょっと寂しい(原住民の村での所業でみんなの前で歌うことが快感になってきたので、カラオケは1人で、という心境に変化がでてきた)。

座禅、瞑想などの1人でも楽しめる企画も候補に挙がったが、楽しすぎて寝られなくなっても困る。

さてどうしようか…。

1時間くらい熟考した結果、結局『自分の半生を振り返る』というちょっとお堅いが、旅にはうってつけの企画で夜を過ごすことにした。まさに自分探しの旅である。

気づけば学生時代も終わり、4月からは社会人である。勤務先が小学校なので社会に出るという気は全くしないのだが、とりあえずは働き始めるわけだ。果たして、僕のこれまでの人生はどうであり、これからどのような人生を歩んでいくのだろうか…。

ちなみに僕は人一倍集中力がない。

そのため、こんなお堅い話はものの2分で打ち切りとなり、結局は関空で買った『週間ベー○ボール』を読み返し、夜食を食べながら言葉のわからないテレビをぼけ~と眺め、最高に無意味な時間を過ごし、そして寝た。僕の人生はこんなものである。なんの話だ。

 

無駄な夜を過ごした翌日、僕は東海岸をさらに北上すべくバスターミナルへと向かった。

前回の旅では列車で4時間かけて花蓮へ向かったのだが、山側を通る路線で景色も単調だったため、今回は趣向を変えて海側の道を通るバスで花蓮を目指すことにした。所要時間は5時間ほどで一日あれば余裕で着けてしまう。

しかし、せっかくなので台東と花蓮の中間に位置する豊浜という場所で途中下車することにした。『地球の~』によるとここはサーフィンも盛んで自然豊かな場所らしく、原住民の姉妹が経営する民宿もあり宿泊にも困らなくてすみそうだ。日程的には多少余裕がある。海の見える民宿で原住民姉妹と交流を深めながら旅の疲れを癒そうではないか、そういった何ともうれしい心遣いにあふれた計画なのだ。

…なんかこんな展開を高雄のあたりでも見た記憶がある。小琉球へ行くつもりが不親切な「地球の歩き方」にだまされたおかげで、全く予定外の原住民の村へと行くことになった例の展開。結果的にはそれでよかったといえるが、旅行者が絶大な信頼を寄せるガイドブックがたるものがウソの情報を載せて旅人を騙してはいかんでしょ。

でも、今回は大丈夫なはず。だってバスターミナルの料金表に豊浜って書いてあるし。

「にいはお~、豊浜1票お願いします~」

『は?豊浜?お前何しにいくだ、あんなところに?』

「え、途中下車の旅をしようかと」

『はあ?まあ個人の自由だからいいけど、何もないぞあそこ』

えっ?でも『地球の~』には書いてあったぞ、宿もあるって。

とりあえずバスターミナルのおじちゃんは切符を売ってくれたが、どうも釈然としない。…。だ、大丈夫でしょ今回は!

 

バスの出発まではまだ時間があるため、銀行で両替をし、街唯一のマクドナルドへと向かった。

ちなみにこの銀行で両替の仕方がわからずオロオロしている僕に、一般客のおばちゃんが日本語で優しく声をかけ、両替方法を教えてくれるという心温まるエピソードがあった。

このおばちゃんは見た感じ日本統治時代の生まれではなさそうなので、独学で日本語を学んだものと思われるが、とても流暢で驚いた。

そして困っている人へ自然に声をかけることの出来るその親切心には本当に頭がさがる。

さて、バスは昼過ぎの発車のため腹ごしらえにとマクドナルドへやってきたわけだが、よく考えたらマクドナルドへ入るのはこの旅初めてじゃないか。

がんばったなあ。韓国でも中国でも、食堂に入れずマクドで悔し涙を流しながら食事をした苦い過去を払拭したわけだ。コンビニにはかなりお世話になっているけど。

台湾のマクドナルドでは現在キャンペーンが行われており、普段は食べることの出来ない特別メニューが提供されていた。その名も阿拉斯バーガー。字だけではなんのこっちゃわからないけど、ようするに日本のフィレオフィッシュの巨大版。ビッグマックの中身が魚に変わった、日本では見たことのない商品である。

美味しいのかはわからないが、早速購入。

お…。

…。

う、うまい…。

なんだこれめちゃめちゃうまいぞ!

この旅で食べた食べ物の中で一番うまい。

こう言うと散々うまいうまいと連呼していた原住民の祭り料理や嘉義の鶏肉飯がたいしたことがなかったように思えてくるが(あれはあれで美味しかったんだ)この阿拉斯バーガーはそれらに勝るくらいめちゃくちゃ美味しく感じた。

なんだ、こんなことならもっと早くマクドナルドへ行けばよかった。もうあと一週間しかないんだから、3食全てこれを食べても20回くらいしか食べれないじゃないのさ…。

ここまで1週間の食生活を後悔し、そして今後1週間、阿拉斯バーガーを食べ続けることを誓い、ついでにもう1個阿拉斯バーガーを注文しバイトのお姉ちゃんをドン引きさせつつ店をあとにした(ちなみにこの時点で阿拉斯バーガー、ビッグマック、ポテト(L)を完食済み)。

バスの発車までもうしばらく時間があったため、街中にある小高い丘を利用して作られた公園を散策し時間を潰すことにした。

台東は本当に観光名所がないようで、目に付いたのは地元のおじいちゃんなんかが野外カラオケをしているこの公園くらい。五重塔みたいなものに登ったり、なぜか敷かれていた線路の上でお馴染みの『スタンドバイミーごっこ』をしたりして台東の滞在を思いっきり楽しんだ。

列車も走っていないのに台東の街中に線路が敷かれているのは、もともと台東駅はこの公園の付近にあったからだそう。そしてその周辺が街として発展していったわけだ。しかし、列車の路線から少し奥まったところにあり運行に際し支障が出たため、現在のあの何もない場所に新しい駅が作られたらしい。

このことは全て公園の案内板に書いてあったのだが、わずか1週間の間に台湾の公園にある案内板を読んで内容を理解できるようになるとは、僕の語学力も捨てたもんじゃない。

案内板には日本語も併記されており、義務教育を終えた日本人なら大抵は理解できるという説もあるが、そこはそっとしておこう。

おし、バスの乗車時間になった。さっさとバスターミナルへ向かうことにしよう。

長かったここまでの展開。

正直、今日は台東から豊浜まで移動するだけだからネタが何もない。夜の過ごし方やマクドナルドでの出来事、線路の話とか、本当に旅行記としてはどうでもいい些細な事をかき集めてページ数を稼いできたけど、意外といけるものですね!

『もっと観光のこととかかきなさいよ。』

と、いわれることは百も承知だが、だって本当に見るものないんだもの、ここ。

昨日も言ったけど、台湾東海岸は観光的な魅力に乏しいから。悪いけど今後数日間はこんな感じで、本当にどうでも良いネタでうめていくことになるだろう。仕方ないよ、何もないんだもん。

 

バスターミナルがぼろぼろのため大して期待はしていなかったのだが、バスは大きくて思ったよりも綺麗だった。

さて豊浜まで2時間くらい。昼寝にはちょうど良い時間だし、ぐっすりいこうではないか。

「にいはお!運転手さん、はい切符!」

『はいよ。ってお前豊浜いくのか!?』

「ええ、それがなにか。」

『何ってあそこなにもないぞ、ホテルも見所も』

「何をいっているのですか。僕には日本一のガイドブック『地球の歩き方』がついているんですよ。これに色々あるって書いてあるから大丈夫なのです」

『いやいや本当に何もないんだって。バスの本数も少ないから野宿するはめになるぞ。悪いことは言わないから花蓮行きの切符にかえてこいって』

「だから大丈夫だって!『地球の歩き方』がウソをつくはずがないもん」

『ったく、どうなってもしらんぞ…』

なんて強情な運転手だ。『地球の歩き方』には確かに多納の時は騙されたし、この前中国に行った際には北京の地下鉄の金額が違うこともあったさ。

しかし、これ以上ウソ情報を載せるわけがなかろう。仮にも『Japanese No1 ガイドブック』だぞ。

そんな中で動き出したバスは、台東の街を抜けるとすぐに海沿いの道に入り、小さな漁村をいくつも通過しながら北上を続けた。しばらくすると小雨が降り出し、そのおかげで景色も大して綺麗とは言えない。どんよりとした空模様と灰色の海がかもし出す何ともいえない暗い雰囲気が僕の今後の運命を暗示しているかのようだ。

そして2時間半後、バスは噂の豊浜へ到着した。

『ここでトイレ休憩を取るから、みんなもバスから降りていいぞ~』

そういうと、運転手さんは誰よりも先にトイレへ走っていった。

なんだよ、客じゃなくてあなた自身のトイレ休憩かよ。

でもそんな自分勝手な運転手ともここでお別れだ。いまから僕はここ豊浜で思う存分エンジョイするんだ。

崖と崖の間に作られた集落のようで見たところお店も何も見当たらないけど、きっと楽しいことが待っているんだ。

雨も強さをまし、海も荒れ気味だけど楽しいに決まっているんだ。

そして集落に唯一ある例の民宿らしき建物が全く営業していない気がするけど(雨が降っている薄暗い夕方なのに電気すらついていない)きっと…きっと大丈夫なんだ!

 

「にいはお~!だれかいませんか~!!とまりたいんですけど~!」

シ~ン…

「お~い!だれか~!」

シ~ン…

「お~い!お~い!お~い!」

シ~ン…シ~ン…シ~ン…

「だれか…」

シ~ン…

…。

『おい、日本人』

「う、運転手さん…」

『もうやめとけ。気が済んだだろ』

「…。」

『だから何もないっていっただろ?』

「はい…」

『乗れよ。花蓮までの切符に変更してやるから』

「はい…」

そして僕は優しい運転手さんに助けられた。

なお、切符の更新の際に『台東~豊浜間の購入済み切符』が必要だったようだが、僕はすでに紛失していたため、運転手さんに再発行の手続きをさせ余計な仕事を増やし、その手続きのおかげでバスの出発時刻を遅らせ、台湾東海岸の住民に多大な迷惑かるという二重の失態を犯した。

そのおかげで運転手にも客にも頭が下がらなくなった僕は、運転手自身がトイレに行きたいからとバス停でも休憩場所とも違う所で勝手に停車し、客を置き去りにして自分ひとりだけ公衆トイレに駆け込むという、遠州鉄道バスの乗務員がやったら静岡新聞を始めとした県内報道機関に追及され社長が辞任に追い込まれるほどの大不祥事を起こそうとも、客が大声で電話を始めて眠れず頭にこようとも必死に我慢をし、合計6時間(本来の運行時間5時間+運転手のトイレタイム1時間)のバスの旅を終えた。

そして、1度ならず2度までも僕を騙した『地球の歩き方』のことは今後は信用しないと心に決め、花蓮のお馴染みの宿へと向かったのだった。