台湾リベンジ 第11夜 花蓮
2008年1月25日
花蓮のお馴染みの宿に泊まるのは3年連続3回目なのだが、実は特別快適というわけではない。
花蓮の街中ということで夜も外はうるさいし、テレビもケーブルテレビに加入していないようで視聴できるチャンネルも数えるほどしかない。内装も特段キレイではなく、部屋の広さも大したことはない。クーラーは寒いくらいに良く効くが、冬の台湾では残念ながら必要ない。
そんな宿をわざわざ選んでいるのは、やはり日本語の流暢な宿のおばちゃんの存在が大きい。
日本語のレベルがとにかく高い。日本のおばちゃんと普通にトークをしている感覚なのだ。日本語以外をほとんど解さない僕のような旅行者にとっては女神のような存在である。
唯一のウィークポイントは、日本のおばちゃんと同レベルでお節介ということだ。
いや、ウィークポイントというのはおばちゃんに失礼だ。彼女は遠い異国から来た日本人に花蓮を満喫してもらおうと様々な場所を勧めてくれているのだから。
昨日の夜は、おばちゃんの熱心な勧めで、ホテル近くの広場で毎晩行われているアミ族のダンスショーを見学した。そして今朝は、海沿いにある大きくて派手な廟を見学した。もちろんおばちゃんの勧めによるものだ。
確かに両方とも楽しかった。でも3年連続で見ているんだよなあ、2つとも。
ダンスショーでは次の企画のタイミング(観客をステージに上げ一緒に踊る)までわかっちゃうし、廟にいたってはトイレの正確な位置まで把握できている。3年連続3回目ともなるとさすがに飽きてくる。もっとリピーター向けのディープスポットの紹介はしてくれないのだろうか。
そして、この展開からしておそらく次は台湾東部最大の観光名所である太魯閣渓谷を勧められるんだろうなあ、とおそるおそる廟から帰ってみると、案の定そのような展開になり、そしてやはりおばちゃんに押し切られる形でバスに乗車。見事3年連続3回目の太魯閣渓谷訪問と相成ったわけである。
しかし、人口1億を超える日本において、3年連続で花蓮を、そして太魯閣渓谷を訪れている人物というのは果たして何人いるのだろう。初めての訪問で感銘を受け、翌年再び訪れてみる、という人はいるかもしれない。しかし、その翌年にまた訪れるという奇人とはなかなか出会えないのではないだろうか。
これがパリとかローマとかプラハとか、世界的な大都市ならわからなくもないが、台湾の、しかもものすごく地味な東海岸に位置する地方都市・花蓮である。親戚が住んでいるから、などの理由がなければ3年連続でやってくるやつなんて絶対いない。
というわけで、『3年連続で花蓮及び太魯閣渓谷を訪問する奇人』は、
何よりも先に、腹ごしらえのために天祥(渓谷の中心集落)のバス停近くにあるお馴染みの食堂へ行くことにした。
『台湾紀行』でも『ぼっちで台湾』でも出てきたのであまり詳しくは書かないが、とにかくここの飯が美味い。特に塩焼きそばとチャーハンは絶妙な脂っこさで最高に美味い。それ以外の物を食べたことがないので何ともいえないが、とりあえずこれを食べないと太魯閣渓谷へ来た気がしないのだ。
さて、お腹もいっぱいになったことだし渓谷探検に出発。
この前人未到の秘境(花蓮からバスで3時間半)で僕を待ち受けているものとははたして…。
…。
無理にテンションを上げては見たものの、3度目だから特に目新しいものもないんだよ…。
五重塔のある立派なお寺も、日本人の慰霊碑がある遊歩道も、この前いったし。
しかも前回の旅で天祥から麓のバス停まで4時間くらい渓谷を歩き通しちゃったから、いまさら渓谷もどうでもいいんだよ…。
僕のやる気のなさを察してか、天の神様はいきなり大雨を降らしてくれた。こうなると真面目にすることがなくなる。
…。
帰ろうかな…。
とりあえず例の食堂で飯は食ったし。バスの中から渓谷も眺めたし。ある意味目的を達したといえる。
そう思ってバス停へ向かったものの次のバスは2時間後の発車ということなので、近くにある太魯閣渓谷でもっとも高級なホテルのロビーに侵入し、ソファーでくつろぎながら新聞や雑誌を読み、インターネットコーナーで時間を潰し、
ホテル内部へのさらなる侵入を計画したところホテルマンに捕獲されそうになったため外へ脱出。例の食堂の裏手にある小さな教会でかの有名な『最後の晩餐』(のカラーコピー)を眺め神聖な気分に浸ったところで、ようやく到着したバスに乗り花蓮へと戻った。
…。
なにしに渓谷まで行ったんだ…。
脂っこい飯食って、インターネットして、『最後の晩餐』のカラーコピーを眺めただけだぞ。他に何かすることあったろ…。往復7時間かかっているんだぞ。
仮にも将来、世界遺産に登録される可能性のある貴重な場所なんだから。
北海道の知床に行って、飯食って、インターネットして、カラーコピー眺めて帰る外国人旅行者がいるだろうか。
というわけで、花蓮の街に戻ってきたのは18時過ぎ(バスは3時間半かかる)。あたりはすっかり暗くなり、一日の終わりがすぐそこまで近づいてきていた。
本当に今日1日何をしていたんだろう…。
マクドナルドでお馴染みの阿拉斯バーガーを食べ(2日連続3度目)、CD屋さんで物色する。いつもと変わらぬ夜の過ごし方だ。
夕食を食べながらふと思ったけど、1月29日の朝には帰国便が飛び立つ。旅も実質あと3日しかない。そろそろネタもなくなってきたし、今後も旅行記が盛り上がるようなネタが出てくるとは思えないからちょうどいい気もするけど、いまいち実感がわかない。こんな夜の過ごし方も、あと少しなんだよなあ…。
よし、旅の終わりも近いし、今日はお土産を買って夜を過ごすことにしよう。
昨晩発見したアニメ声のお姉ちゃんがバイトしているタコ焼き屋台でわさびタコ焼きをたくさん買い、このお姉ちゃんと仲良くなれたらどんなに旅が楽しくなるだろうか、という妄想をしながらCDショップへ向かう。
いろんな旅行記で書いているけど、僕は外国へいくと必ずCDショップにより、ヒットチャートNo1のCDを買うことにしている。
『その国の文化がわかって面白いからだ』などと格好の良いことを前回の旅行記では書いた気がするが、実際は完全にネタのためである。
どんな曲が流れてくるのかわからずドキドキ、そんな心境の中再生ボタンを押す。ここでとんでもない曲が流れてきたらその場は最高に盛り上がるだろう。そんなくだらない理由で購入している。
ちなみに、過去の旅で僕が買っていったCDは案外良い曲ばかりで大してネタにもならなかった。
というより、せっかくサークルのみんなを楽しませようと買っていったのに誰も興味を示さず、ネタ見せすらかなわなかった、という苦い過去がある。
それでも懲りずにCDを買おうとしているのにはわけがある。
サークルの誰からも相手にされず、異国の地からやってきたCDを一人寂しく、時には涙を浮かべながらアパートの部屋で聞いていたところ、僕の心をうつ、素晴らしい曲が流れてきたのだ。
その時に聞いていたCDは某人気アイドルのものだったのだが、台湾のアイドルは日本のそれとは違い、楽曲のレベルがなかなか高い。容姿ももちろん抜群である。
傷心気味の心を慰められた僕は、完全にそのアイドルにはまてしまった。
そしてその後、中国は上海で購入した台湾アイドルにもはまってしまった。
さらにこの旅の間、バスの中やテレビで頻繁に流れていた曲に完全に洗脳され、いつのまにかそのアイドルにもはまってしまった。
というわけで、上記の3人(正確には2人と1グループ)のCD、最新のものから過去のものまでを合計で5枚ほど購入。
おぉ、なんか今日起きた出来事の中で1番楽しいぞ。午前中は何をしていたんだっけ?なんかバスに乗っていたような…(あまりにも無駄な時間を過ごしたため午前中の記憶が薄れてきている)
というわけで、午前中の記憶を失ったまま夜の海岸沿いを散歩する。
街中は人通りもそこそこあり明るい雰囲気だが、ちょっと海沿いに出ると薄暗く、人もそれほど歩いていなくて大変静か。某国による拉致ってこんなところで行われたんだろうなあ…。こわいこわい…。
そんな静かな雰囲気の中、聞こえてくる妙な音。
カキーン!
カキーン!
…。
お、この音は…。
バッティングセンターだ!そういえば思い出したぞ。1年前もここで時間を潰したっけ。
懐かしさのあまり思い切って入店。相変わらず地元のヤンチャな連中が集まってきている。よし、それではWBCで世界一になった日本(から来た大して野球経験もないただの旅行者)代表が彼らを黙らせてやるか…。
まずはストラッグアウト。ボールを9枚の的に当てパーフェクトを目指すお馴染みのゲームだ。
僕がゲージに入ると地味に人が集まってきた。やはり日本(から来た大して野球経験のない旅行者)代表。注目の度合いが違う。
でも、嫌いじゃないぜ、こういうプレッシャーは!
ビュッ!
バシッ!
ビュッ!
バシッ!
どうだ、このサブマリン投法から繰り出される針の穴を通すかのようなコントロールは!(得意げにギャラリーを振り返る
…。
いない…。さっきまでいたギャラリーがいない…。
台湾の人はどうやらコントロール重視の緻密なピッチングには興味がないらしい。その証拠に、僕の隣のゲージで的には全く当たっていないが、かなりの剛速球を投げこんでいる地元のお兄ちゃんには歓声が沸いている。
ちなみに僕の急速は62キロだ。
おいおい…。見ろよこの老練な投球術をよ…。6枚も抜いたじゃないか。拍手してくれていいんだぜ。
仕方がない。今度はバッティングで観衆をわかしてやることにしよう。
台湾のバッティングセンターも日本のそれとはそれほど違いがなく、急速ごとにゲージが分かれており、お金を入れるとボールが飛んでくる。
それじゃあウォーミングアップがてら120キロへ!
ビュッ!
スカッ!
ビュッ!
スカッ!
…。
速すぎてあたらない…。
じゃっ、じゃあ110キロにしておこうか!
ビュッ!
スカッ!
ビュッ!
スカッ!
…。
それじゃあ100キロに…。
ビュッ!
スカッ!
ビュッ!
スカッ!
…。
結局、日本(から来た大して野球経験のない旅行者)代表にちょうど良い急速は80キロであることが判明し、ちびっ子たちに紛れてイチローばりの痛烈な打球を飛ばし続けるのであった。