台湾再訪 一人でリゾート

海角七号」という台湾映画がある。

日本統治時代の切ない恋模様を現代の若者たちとうまくリンクさせて描く感動作で、台湾ではタイタニックを超え歴代1位の興行収入を記録した大ヒット作だ。僕は日本での公開初日に、わざわざ名古屋まで出向き、風邪を押して鑑賞した。そして大変感動した。そしてそして、帰りの新幹線の中で決意したのだった。物語の舞台、恒春へと行ってみようと…。

前回の多納村再訪から1年後、僕は台湾最南端の街、恒春へ来ていた。高雄からバスで3時間。恒春の街は台湾地方都市にありがちで多少さびれているが、街を散策してみるとサーフボードや水着を販売するお店がやたらと目立つ。

旅のパートナー「地球の歩き方」で確認してみると、ここは台湾随一のリゾート地とのこと。恒春の街からバスで30分ほどいった墾丁国家公園という地区があり、今どきのナウいヤングたちが多数集結しているらしい。そして、「海角七号」の聖地は墾丁国家公園に多数分布しているのだ。

正直言っていきたくない…。僕はナウくもないしサーファーでもない。(多少はヤングだ。)

むしろそんな奴らが大嫌いだ。僕はただ単に「海角七号」の聖地巡礼に来ただけである。それが、まさかリゾート地だったとは。大誤算である…。

全てを忘れて高雄へ戻ろうかとも考えたが、往復6時間もかけて1日を無駄にするのは悔しい。学生時代と違い、社会人は時間がないのである。

決死の思いで恒春の街からバスを乗り継ぎ、行きたくもないリゾート地を目指す。

青い海、白い砂浜…。そんな場所にモコモコパーカーを羽織った男が行っていいのだろうか。

墾丁国家公園地区に入ると、予想通りメイン通りには半そで短パンのナウいヤングがあふれかえっていた。そんな中でバスを降りた僕は、浮きっぷりが半端なかった。

恥ずかしさのあまり思わず駆け込んだセブンイレブンの中も、ナウなヤングたちであふれており、僕は完全に行き場を失っていた。せっかくの休日に僕はなんてところに来てしまったんだ。本来、リゾート地というのは楽しむ場所であるのだが、合わない人間にとってはとことん合わないのである。

それでも、どうにかこの状況に立ち向かおうとした僕は、おなじみセブンイレブンに売っていた「オープンちゃん」Tシャツを購入。一矢報いるために公衆トイレで着替え、再度街へと繰り出したのだった。

ちなみに「オープンちゃん」とは台湾セブンイレブン公式キャラクターであり、「オープンちゃん」の魔法でみんなの心もオープン!!ハッピーな毎日が送れるよ!!ということらしい。

その言葉を信じて街へ繰り出してみたものの、僕以外の周りのみんなは楽しそうに心をオープン!!しているが、案の定僕の心はオープンせず。オープンちゃんの力をもってしても開くことのできない僕の心。

それでもあきらめきれない僕は、白い砂浜に繰り出し、青春ドラマのワンシーンを再現しようと波打ち際を全力疾走するという奇行に出た。

すこしでも周りのヤングたちに近づきたい…。

その一心で砂浜に残った足跡の写真を撮ったり、夕暮れをバックに自撮りするなどの度重なる奇行を重ねつづけた。こういった行動は本来、カップルや友達と行うべきものである。一人で行うことがこんなにもつらいことだと、僕は初めて知った。旅というのは日々勉強なのである。

そして時は流れ…。

日がどっぷりくれたころ、僕は恒春行きのバスへ乗った。

その眼にはうっすら涙が浮かんでいた。

なお、本来の目的である「海角七号」の聖地はしっかり回った。

しかしながら、もしかしたら映画のような恋模様が僕にも…という淡い期待は無残にも消え去ったのだった。なんのために行ったんだ…。

もうこないもん。

強い決意のもと、恒春へ戻った。