ヨーロッパ紀行 第24夜 ローマ 

『Oh!アリガトウ!コレニホンゴメニュウー!』

…。

朝にも関わらず、めっちゃ客引きしてくる我々の救世主。いったい何時から営業しているんだ、この店は…。

駅へ行く時に必ず通る道なので避けようがないのだが、朝からあの大型ピザを食べるのは無理だ。シッシッ!

 

ローマ三日目。

今日は実質的な旅の最終日。そして本日訪れるのは、あの「真実の口」だ。

昨日訪れたスペイン広場と並ぶ、「ローマの休日」の名シーンで知られる必見スポットである。

地球の歩き方』情報では行列になるということだったので、こうして早朝から向かったのだが、あまりに早く着きすぎたせいか誰もいない。開場まで、まだ1時間以上もある。

時間つぶしに近くの丘へ登ってみる。

ここらあたりは住宅街のようで、朝のまだ涼しい時間帯に散歩に興じる紳士淑女であふれていた。とても静かで、客引きや観光客であふれかえっているテルミニ駅周辺とは大違いだ。

住宅街の一角にある公園からは、ローマ市街が一望できた。

こうしてみると、ローマ市街には高いビルが一つもない。パリでもベルリンでも、そしてブリュッセルでも見ることができたビルがないのである。本当に赤茶けた屋根の建物しか見当たらない。一国の首都にもかかわらず近代的な高層建築が一つもないことにちょっと驚いた。

 

さて開館時間にあわせて真実の口へ向かうと、入り口に20人ほどが列を作っていた。油断していると見落としてしまうくらい目立たない小さな教会の中に、真実の口はあるようだ。

列が進み教会の中へ入ると、順番に、真実の口の前で「ローマの休日ごっこをしている観光客の姿が。そしてその隣には、不機嫌そうなおじさんが一人、観光客をにらんでいる。おじさんはどうやら教会の人のようだが、観光客が写真撮影をお願いしても『ぷんっ!!』と断るなど大変愛想が悪い。「地球の歩き方」には、親切な係員が写真を撮ってくれたと書いてあったんだけどなあ。

『チップて渡すものなの?』

ここで奥さまが気づく。

真実の口を見学するのに、見学料はいらない。無料である。ただしチップは大歓迎だ、と「地球の歩き方」には書いてあった。

確かに、不機嫌なおじさんの横には何やら木の箱がおかれている。

しかし、僕らより前に並んでいる観光客は、その箱に目もくれない。だれもチップを入れないのだ。

まさか、おじさんが不機嫌な理由はこれでは…?

列が進み、いよいよ僕たちの番である。

礼儀正しい我々は、イタリア人の対日感情をよくするため、まずはおじさんに一礼し、例の木箱にわかりやすく1ユーロコインをいれた。

するとである。

おじさんは急に饒舌になり、笑顔で僕たちを真実の口の前へ案内し、『写真はいいのか?とってやるぜ!HaHaHa!』ぐらいの勢いで僕らのカメラを取り上げ、頼んでもいないのに記念撮影をしてくれた。

わかりやすいおじさんだなあ…。

チップを入れると動き出すって新種のアトラクションかよ。

その後、僕たちの一連の行動を見ていた列の後ろの皆さんも続々とチップを入れだしたため、おじさんの機嫌はとてもよくなった。

対日感情アップ、そして教会の収入増に貢献した僕たちは、「実によいことをしたなあ」と充実した気分で「真実の口」を後にしたのだった。

 

人にいいことをすると何かしらいいことが返ってくるもので、その後訪れた2,000年近く前の公共浴場の跡地「カラカラ浴場」(テルマエ・ロマエの舞台)では、見学中にネコに遭遇。イタリアネコと楽しい時間を過ごすことができた。

しかし、ローマ時代の貴重な遺産を訪れたにもかかわらず、その感想が「ネコに遭遇したこと」とは、前代未聞の旅行記である。もう少しましなことは書けないものだろうか。

次に訪れた市内の教会(だまし絵で有名だけど名前忘れた)では、見学後、すれ違ったお兄ちゃんに突然肩を叩かれ、なんだ?カツアゲ?と怯えていたところ、「Hey!Shalker!」と声をかけられた。

その時、僕はうっちー所属のドイツブンデスリーガシャルケ04のユニフォームを着ていた。ローマ初日にローマ三越の近くにあったサッカーショップで購入したものだ。前回の旅でうっちーと遭遇して以来、僕はすっかりシャルケファン。ゲルゼンキルヘンの街、親切にしてくれた人たち含めすべてが気に入っていた。

そしてShalkerとは、ようするにシャルケファンということ。きっとあのお兄ちゃんもShalker。ローマに観光に来たらShalkerと遭遇、おいおいしかも東洋人じゃないか!と、彼は興奮を抑えきれなかったのだろう、たぶん。

僕は振り返り、親指を立てて彼に答えた。サッカーが結んだ友情である。

ちなみに、ここローマにもサッカークラブがある。かつて中田英寿が所属したASローマ、そしてそのライバルであるSSラツィオ。そして、ローマの前に訪れたフィレンツェにもフィオレンティーナというクラブがある。

本場のサッカーが見てみたいと思った僕は、出発前にいろいろと調査した。

すると、なんと僕たちがフィレンツェに到着した翌日がセリエAの開幕日ではないか。なんという偶然!と、ウキウキしながら対戦カードを確認すると、フィオレンティーナはまさかのアウェイ。みられない…。

じゃあ第2節は?ちょうどローマにいるけど…と、再度日程を確認したが、ASローマはアウェイ、そしてラツィオはまさかの日曜開催(僕たちが帰国する日)。なんというニアミス…。

結局本場でサッカー観戦する夢は絶たれたのだった。

そして、次回観戦する時のためにASローマのショップやおみやげ物の屋台でユニフォームを買い込んだのだった。

 

さて、この3日間でローマ市内の名所をあらたか制覇した僕たちは、旅の最後にもう一度バチカン市国へ行くことにした。

昨日の訪問後、あらためて「地球の歩き方」をよんでいたところ、広場にあった大きな教会「サンピエトロ寺院」は中に入れることが判明。しかも塔の上にも登れるらしい。日本から気軽に来られる場所でもないので、やり残しは禁物、という結論にいたり、いざ参戦だ。

入り口で荷物検査をうけ、エレベーターで上の階へ。聖堂内は吹き抜けで、ちょうど聖堂内部を上からのぞき込めるような構造になっている。この時点でとんでもない高さなのだが、そこからさらに石造りの階段を登っていく。

昔の教会にありがちな、とても狭い螺旋階段を登っていくのだが、永遠に続くのではないかと思うくらい、本当にいつまでたっても終わりがこない。階段は吹き抜けになっているわけでもないため、この先がどうなっているのかもまったく見えない。

先が見えないだけに、あと少しだ、と自分を奮い立たせることもできない。ただただ苦痛なのだ。

階段の幅は人ひとりが通れるほどしかなく、後ろからは続々と観光客が登ってくるため、疲れたからと言って道を譲ることもできない。そして、基本的に一方通行で、下りる階段は別という洒落たつくりをしているため、途中で引き返すこともできない。一度登り始めたら、とにかく最後まで、無心で登り続けることしかない。地獄のような階段だ…。

果たして何分、いや何時間登り続けたのだろうか…。太ももがプルプル震え、肉離れになる寸前になり、ようやく目の前が明るくなってきた。ようやく頂上へ到着…。

と、思ったのもつかの間、今度はその高さにやられてしまった。

階段を上がりきるとドアが現れる。そのドアを開けると、目の前にいきなりとんでもない絶景が飛び込んでくる。ドアの目の前がもうフェンスなのだ。屋上のスペースが驚くほどに狭い。

そして、そのフェンスがなんとも頼りない。少し寄りかかろうものなら、倒れてしまいそうだ。風もビュービューに吹き荒れており、率直に言って怖い。高所恐怖症の奥さまにとっては階段からここまで、本当に地獄だったようで、屋上に出てからというもの一言も言葉を発しない。

しかし、よくもまた、こんなところを開放したなあ…。

日本でいえば、東大寺大仏殿の屋根の上を展望台として開放しているようなものだ。

ありえない…。バチカン怖ろしい…。

びゅーびゅーと台風のような強風が浮き荒れるサンピエトロ大聖堂の上では、とてもローマ市内の絶景を堪能する余裕などはない。恐怖のあまり足を震わせた僕たち2人は、そうそうに下り階段へ向かったのだった。

 

バチカンでの恐怖体験で精神力を使い果たした僕たちは、いまにも倒れてしまいそう状態でふらふらとホテル方面へと向かい、『Oh!アリガトウ!コレニホンゴメニュウー!』というあまい誘惑に引き寄せられるがまま、昨日と同じお店で夜ご飯となった。

イタリア最後の夜ということで、お酒に強い奥さまが頼んだリンゴのワインを少しいただいたのだが、実においしかった。お酒をまったく飲めない僕にとって、お酒がおいしいと感じたのは初めてではないだろうか。

そういえば、ヨーロッパでお酒を飲んだのは、チェコチェスキークルムロフでビールを飲んで以来だ。べろんべろんに酔っぱらって、よくわからない公園のベンチに倒れ込んだんだっけ。

料理も、最後に追加で注文したデザートも最高においしかった。ここのお店は地元の人も利用するような大衆店であり、特別高級なお店というわけではないのだが、それでもこのレベルの料理を提供してくるのだから、イタリアというのはやはり美食の国なのである。

ご飯がおいしいということは、旅をとても楽しくさせてくれる。

イタリアという国は、見どころも満載、ご飯もおいしい、そして人がとてもフレンドリーと、僕の中では、いままで訪れたヨーロッパの国の中で一番良かった。今まで訪れなかったことが悔やまれるくらい良かった。

見どころがあまりなく、ご飯もおいしくなく、たいしてフレンドリーでもないドイツとは大違いである。(語弊があると困るのであえて言うが、そんなドイツが僕は大好きです。)

お店の前では、道路工事をしていた。

僕たちはその道路に面したテラス席へ案内されたのだが、日本だったら目の前で工事を行っている場合、普通はテラス席に案内しないだろう。実にイタリアらしい、とてもいい加減な行動だ。

でも、イタリアのこの適当さ、いい加減さが、とても心地よいのである。