ヨーロッパ紀行 エピローグ
「ニホンジンノオキャクサマ、ササノッテノッテ!クウコウヘムカウヨ!」
ローマ空港まで案内してくれるというイタリア人男性は、そういいながら奥さまのキャリーバックだけを素早く手に取り、ホテルを出て送迎用の車へと向かった。僕のキャリーバックの方が倍近く大きく、そして重いのに、である。
何よりも女性を優先するその姿勢。これこそがイタリア人である。
僕は「ううむ」と一人で感心し、重いキャリーバックを引きずりながら車へと急いだ。
空港までは車で30分くらい。旅行代金をケチらなくてよかった。
旅の最終日といえば、毎回、着替えやおみやげ物でパンパンになったバックをヒイヒイ言いながら運び、倒れこむように空港へ向かうのがお約束となっていた。今までとは大違いだ。やはり人生で物をいうのはカネなのである。
「これが最後のヨーロッパの旅になるかもなあ」
空港までの車の中で、車窓に流れるローマ市内の風景を眺めながらそんなことを思った。
8年前、初のヨーロッパ参戦から実に4回。通算で1か月近くも旅していたことになる。
現地語はおろか、英語すらままならない僕が、よくもまあ、ここまで旅してこられたものだ。
思い返してみると、いろいろな出来事があった
パリではHipHopから必死の逃亡。とてもかわいいフランス人少女に詐欺られたこともあった。
ルルドの泉にやられ、腹を下しながら必死でピレネー山脈を越えスペインへ入国。
サラゴサで食べた久しぶりの米に号泣し地元民をドン引きさせた。
ラマンチャ地方の荒涼とした大地に感動したのもスペインだった。
その後に向かったドイツでは、あまりの英語力のなさに対人恐怖症を発症。
そのまま入国したチェコでは、ペンションの場所を聞き取れず遭難し受付のお姉ちゃんに爆笑され、オーストリアではホテルリストがもらえず案内所で号泣…。
リベンジを期して再上陸したドイツではまさかのうっちーとの遭遇を果たし、ベルギーでは小便小僧以外特になし。
そしてまさかの新婚旅行で上陸したイタリアではフィレンツェのあまりの美しさとローマの歴史の奥深さ、そしてご飯のあまりのおいしさに仰天した。
いままでの旅の思い出を振り返ってみると、やっぱりヨーロッパっていいなあ…。
「これが最後のヨーロッパの旅になるかもなあ」
などという30分前の発言は申し訳ないが撤回させていただく。
なにせやり残したことが多すぎる。
満員のスタジアムでサッカーも見たいし、北欧のオーロラだってみたい。コンスエグラの風車村やフィレンツェ、シャルケのホーム・ゲルゼンキルヘンなど、再訪したいところだって山ほどある。
果たして、それが何年後になるかはわからないけど…。
再び訪れるそのときまで、一旦筆をおくこととする。
「カウンターコッチデスヨ!ワタシニツイテキテヨ!」
空港に到着すると、案内人のイタリア人は真っ先に車をおり、やはり奥さまのキャリーバックだけを引いて歩いていった。
僕のキャリーバックの方が倍近く大きく、そして重いというのにだ…。