台湾リベンジ 最終夜

2008年1月29日

リベンジ【revenge】

[名]復讐すること。報復。仇討。借りを返すこと。   ~大辞泉より~

 

そう。リベンジである。

2008年1月29日 午前5時半。台北駅前バスターミナル。

見事リベンジを果たした僕は、バスの添乗員であるお姉ちゃんに笑顔で手を振

りお馴染みの総統府へ歩いて行った。

高雄でもない。台南でもない。もちろん保安駅でもなければ花蓮でもない。

間違いなくここは台北

戻ってきたんだ…。

僕はいま、台北に立っているんだ…。

(以下昨晩の高雄での出来事を回想)

 

横断歩道を半分くらい渡ったところで、前方にある看板を見つけた。

あれって、もしかして…。

ホテルや商店の派手な看板の中で、ひっそりと緑色に輝くその看板。

そこに浮かび上がる「阿羅哈客運」の文字。

一年前。

花蓮に行きそびれ、しかも宿探しにも失敗したか情けない僕を甘い言葉で誘惑し、

「5時間半くらいで着くから!」などとうそぶき、わずか4時間で高雄まで連れ出し、

「いたいけな青年」を深夜3時の高雄駅前に放置するという犯罪まがいの行為を犯

し、ある意味その後のつらく苦しい旅の原因を作り上げたと戦犯といっても過言で

はない、前回の旅の戦犯ともいうべきあの深夜バス会社「阿羅哈客運」。

その高雄営業所が僕の目の前にある。

現在、午後11時半。これに乗れば明日の午前5時までには台北に着ける…。

そして、僕の心の中で繰り広げられる葛藤。

『さあ早く乗りなさい。台北に戻れるラストチャンスよ。』

そうだ。これに乗りさえすれば台北へ戻れるんだ。

その一方で、悪魔も姿を現す。

悪魔『おやおや、1年前ひどい目に遭わされたっていうのに頼るなんてなさk

「すみません!台北1票で!」

今は天使と悪魔の喧嘩に付き合っている場合ではない。受付のお姉ちゃんから

チケットを受け取り颯爽と車内に乗り込んだ。

そうさ、ヘタレな男さ。プライドなんてものはないのだ。

 

バスの車内は、1年前と同じくあり得ないくらい豪華。大きくふかふかなシー

トにどっぷりと腰をおろした。窓の外を見ると、乗務員のお姉ちゃんが、受付

カウンターにいた若いお兄ちゃんと何やらいい雰囲気。それを眺めつつ、僕は

ゆっくりとリクライニングを倒した。

これで台北に戻れる…。

 

(以下現実に戻る)

 

これが、高雄の夜市で日付が変わる近くまで乱痴気騒ぎを繰り広げながらも、

しっかり翌朝9時台北発の飛行機に乗れてしまうトリックの全貌である。西村

京太郎先生もビックリの、時刻表の盲点突きまくる深夜バストリック。

 

台北駅から徒歩10分ほど、総統府は今日も光に照らされ煌々と闇夜に浮かび

上がっている。やはり旅の最後はここでなくては。

早朝5時。まだ薄暗い中で仁王立ちしながら総統府を眺める僕。

明らかに不審者を見る目で僕を見ながら通り過ぎる新聞配達のおじちゃん。

そして、その不審者に近づいてくるライフルを携えた警備兵。

帰ろう。撃たれる前に…。

お馴染みの空港行きバス乗り場へ、早朝の台北駅前を歩いて行く

昼間は人で賑わう中心街のアーケード。そこでは新聞配達に向かうおじさんた

ちが積み込み作業に追われていた。去年も同じ時間にこのあたりを歩いたけど、

こんな光景にであったかしら。

前方には一際目立つ新光三越の大きなビル。その隣にある例のユースホステル

では、今夜もアラフォー氏による犠牲者が出ていることだろう。

近くにあるマクドナルドでは、今日もホームレスのおじさんたちが一夜を過

ごしていた。去年はあんな感じで一晩過ごしたんだよなあ。

脳裏に浮かぶ様々な思い出。

やがて見えてくる空港行きバス乗り場。始発は6時だからまだ30分くらいあ

る。思い出に浸るのも悪くない。

歩行者信号が変わるのを横断歩道の端で待つ。その間にもあふれ出てくる様々

な思い出。

原住民の村での熱唱、キツネを奪った黄くん、たくさんの優しい人たちとの出

会い…。

思い出に浸る僕の目の前を数多くの原付バイクが走っていく。そういえば初め

て台湾へ訪れた時もこの光景を眺めながらいろいろ考えていたっけ。

…そして原付バイクの群れの中、颯爽と走り去っていく空港行きのバス。

…。

バスの始発って6時じゃなかった?いままだ5時半だよ。

急いでバス乗り場に駆け込む僕。

始発時間が1年前から変わってる。5時ってなってる…。

『ほれ日本人、もうすぐ次のバスが来るけど乗るの?』

「乗ります、乗ります!」

さすがは台湾。

思い出に浸らせる暇すら与えないこの強引ぶり。

もう少し感慨深く旅を終わりたかったんだけどな…。

僕はしぶしぶバスに乗り込んだ。

 

乗り場を出発したバスは、台北市内のいくつかの停留所で客を乗せながら徐々

台北市内を離れていく。暗闇の中、遠くにライトアップされた台北101が

見える。

結局行かなかったっなあ、台北101。そういえば故宮博物院も行ってないや。

改めて思うと、今回台湾を一周したことで新しい宿題が増えた気がする。

飛虎将軍廟のおじいちゃんに写真を持っていかなくてはならないし、得恩谷の

民宿のおじちゃんにも改めてお礼をしに行かなくてはならない。多納村では原

住民と日本語の関連性を探らなくてはならないし、台湾東海岸の日本統治期の

遺構も探し切れていない。台北101や故宮博物院訪問は言わずもがなである。

とういうか、3度台湾を訪れているにもかかわらず、台湾を訪れた観光客の9

9%は行くであろう台北101や故宮博物院に一度も言っていないって人とし

てどうなのだろうか。これは、再び台湾を訪れなくてはいけない。

いろいろとやり残したことはあるが、前回の旅と違い「また来たい」と思える

ようになったのは、今回の旅の最大の収穫だろう。

さて、次回の旅ではどこへ行こうか。

遠く離れていく台北市内の夜景を眺めつつ僕は思った。

台湾リベンジ、ひとまず完了である。