ヨーロッパ紀行 プロローグ
午後7時30分。
駅構内のバーガーキングで暴飲暴食の限りを繰り返していた僕たちがあわてて乗り込むと同時に、パリ行きの寝台特急は出発した。
『オラ!』
同室になったイラン出身のベルギー国籍青年とのかみ合わない英語での会話をしていると、どこからともなく車掌らしきおじさんが現れ、パスポートをチェックしていった。彼は、僕らがスペイン語はおろか英語も解せない最高に使えない男たちだということを察すると、なんとなく日本語っぽい単語を使い、この列車のことを説明してくれた。
「…。」
でも、さっぱりわからない…。車掌さん、頑張っているけど、それは日本語には聞こえない。
とりあえず、ハイハイと相槌をうち車掌とのトークを終了させると、今度はどこかから列車職員のお兄ちゃん達が現れ、僕らを部屋から追い出し、有無を言わせずベッドメイクをはじめた。その間、何事かわからないまま(車掌が説明していたはずだがまったく理解できず)廊下に出された僕らは、もうどうにでもなれという気持ちで外を眺めた。赤茶けたスペインの風景が車窓を流れていく。
ベッドメイキングが終わり、正直めっちゃ疲れていた僕らは、すぐさまトイレで歯を磨き、ベッドへ直行した。
パリをスタートしてから一週間。英語もフランス語も、そしてスペイン語も話せない僕らがよくもまあ、ここまで旅をしてこられたものだ。
ルルドの泉で腹を下し、ピレネー山中ではバスに酔い、マドリードでは山賊に怯え…。
目を瞑ると、この一週間の旅の思い出が次々と浮かんできた。
列車はスペイン北部のバリャドリードを通過し、荒涼とした大地の中をパリへ走る。
ゴトンゴトンという列車の走る音を聞きながら、そして、この一週間の旅を思い浮かべながら、僕は眠りに落ちた。